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10/05/2007

違法サイトへのリンクと幇助

 J-CASTの報道によれば、「 大阪府警は2007年5月8日までに、ポルノ画像を掲載したサイトのURL(アドレス)を紹介したとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(児童ポルノ公然陳列ほう助)の容疑で会社員と自営業の2名を逮捕した。新聞各紙の報道によれば、この2人はさまざまなポルノ画像を紹介する会員制サイトを03年に開設。これまでに会員費で1,000万円以上を稼いでいた。調べによれば、児童ポルノ画像が掲載されたほかのサイトのURLを会員に紹介した疑いがもたれているという。」とのことです。

 「特定の情報をダウンロード可能な状態に置くこと」を実行行為とする(ex.商業用レコードの送信可能化等)のではなく、「特定の情報を(自動的に)送信すること」を実行行為とする犯罪類型(注1)においては、当該情報が蔵置されている場所にリンクを貼ったりURLを紹介したりしてそのダウンロード回数を増加させる行為は、当該犯罪の物理的な幇助となります。

 児童ポルノ公然陳列罪は故意犯のみを処罰するものですから、リンク先の内容を未必的にも知らなかった場合には幇助犯としても処罰されません。また、中立的行為による幇助の場合に処罰範囲を限定しようという近時の有力説に立った場合は、リンク先の画像が児童ポルノ画像かも知れないと未必的に認識しつつもそれでもかまわないとしてリンクを貼った場合であっても、一定の条件が満たされた場合には、幇助犯として処罰されないということもあり得るでしょう。

 しかし、上記記事によれば、本件被疑者は、「さまざまなポルノ画像を紹介する会員制サイトを03年に開設」していたとのことですから、リンク先の画像に児童ポルノ画像が含まれていることにつき未必の故意もないとするのはいかにも苦しいですし、「さまざまなポルノ画像を紹介する会員制サイト」だと違法性を阻却するような正当な他の用途というものを想定しがたいようにも思います。「これまでに会員費で1,000万円以上を稼いでいた」とのことですから、Winny事件地裁判決で求められた「主観的意図」だってクリアしていそうです。

 そういう意味では、報道されている事実に誤認がなければ、本件被疑者が起訴され、有罪となるのはやむを得ないように思うのですが、そういう意味では、紀藤弁護士が本当に「リンクを張ることで逮捕されるのは96年9月の広島県警のときにもあったが、結局、不起訴とされた。単なるリンクである場合だと処罰されるのは難しい。というのも、リンクというのは『参照』でしかないというのが国の見解で、これが動くとは考えにくいからだ」と言ったのだとすれば、それは軽率だったのではないかという気がします。

 さらに紀藤弁護士の言葉として、「リンクで『ほう助』に問われるとなると、児童ポルノだけでなく、名誉毀損についても影響を与えることになる。例えば、首相の悪口を書いたサイトへのリンクを張っているだけでも名誉毀損を問われるわけで、書いた人が有罪になるだけでなく、(リンクを張って)まとめた人も有罪になる可能性がある。こうなると範囲が広がりすぎる」とあるのですが、問題はその「首相の悪口」を刑法上の「名誉毀損」とするかどうかという点にあるのであって、リンク先のコンテンツが刑法上の「名誉毀損」にあたる場合(例えば、特定の女性の実名を騙って援助交際を誘っているかのような書き込みをしたよう場合や、特定の女性の顔写真とネットで入手したわいせつな裸体画像とをコラージュしてネットにアップロードした場合等)に、そのような事情があり得べきことを少なくとも未必的に知りつつあえてそのページにリンクを貼ったり、URLを紹介したりする行為を名誉毀損の幇助としたからといって(注2)、「範囲が広がりすぎる」とまではいえないでしょう。

(注1)
大阪FLMASKリンク事件は、わいせつ図画公然陳列罪に関する事例であり、わいせつ図画を公衆に閲覧されうる状態に置くことこそが実行行為であって、個々の観客に閲覧させること自体が実行行為だったわけではないので、リンクを貼る行為が物理的幇助に当たるのか問題となりうる事案であった。

(注2)
 名誉毀損罪の場合、(公然事実を摘示して)人の社会的評価を害する虞のある行為をなすことが実行行為となりますから、「特定の情報を(自動的に)送信すること」自体が実行行為となる類型だと見るべきでしょう(新聞による名誉毀損の場合に、発行の事実があればそれだけで名誉毀損罪の既遂となるのか(大審判明治45年6月27日刑録18輯927頁)、新聞紙の配布によって既遂となる(大審判大正12年5月24日法律新聞2140号4頁)という争いとも関係してくるのかも知れませんが。)。

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