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04/05/2007

60回目の憲法記念日

 もう日付は変わっているのですが、昨日5月3日は憲法記念日だったこともあり、新聞各紙が憲法改正についての世論調査の結果を発表していました。憲法を改正すること自体には賛成だけれども、その内容としては環境権とかプライバシー権などの新しい人権を創設することに賛成しているのであって、憲法第9条の改正に賛成しているわけではないというのが、現時点での国民の多数派の意向であると読み取ってよさそうです。

 「憲法第9条があるからこそ、戦後60年間平和が守られてきた」という認識に関しては、ネット上では比較的評判が良くないのですが、どうも国民一般には未だ広く普及している考え方だというのが実際のようです。そして、私もまた、「憲法第9条があるからこそ、戦後60年間平和が守られてきた」という認識にある程度与します。

 つまり、「日本が第三国と戦争を行う」という事態は、日本が第三国に攻め込んだ場合と日本が第三国から攻め込まれた場合とに起こりえます。従って、日本が第三国に攻め込むことを禁止してしまえば、前者の理由で「日本が第三国と戦争を行う」という事態を回避することができるので、「日本が第三国と戦争を行う」という事態が生ずる可能性を低くすることに繋がります。

 もちろん、第三国に攻め込むことを憲法で禁止しなくとも為政者がそのような選択をしなければ、日本が第三国に攻め込むことにより第三国と戦争を行うという事態の発生を回避することができます。ただし、本当に日本の為政者にそのような選択が可能ならば、です。

 日本国憲法に第9条の規定がなかった場合、あったとしても軟性憲法であった場合、朝鮮戦争及びベトナム戦争のときに米軍からの派兵要請を断ることが、当時の日本政府に可能だったのかというと、かなり疑問です。憲法第9条があったからこそ、あの時代に、有為の若者の命をむざむざ犠牲にすることなく、経済発展に向けることができたわけです(その間、朝鮮戦争の舞台となりかつベトナム戦争での派兵要請を断ることができなかった韓国において経済発展が遅れたこと、及びベトナム戦争により米国の経済発展が相当停滞したことと比べると、実に対照的です。)。

 他方、日本政府は、憲法第9条があることで、日本が第三国から攻め込まれて第三国と戦争を行うという事態を生じさせる危険というのは過去にあったのでしょうか。

 第2次世界大戦終結後の世界は、それなりに真剣な領土紛争があったわけでもないのに、領土を増やすために軍事侵攻を行うということが非常に困難となっています。そして、日本が第三国と抱えている領土紛争は、大きく分けて、北方領土、竹島、尖閣諸島の3点ですが、うち、前2者については、日本は現実には実行支配をしていないので、「攻め込まれる」余地がありません。尖閣諸島については、近時、中華人民共和国政府及び中華民国政府がその領有権を主張していますので論理的には「攻め込まれる」よりはあるのですが、日本政府が海上保安隊等による国境警備をしていた場合に、これを軍事的に強制排除して尖閣諸島の占有を行うことの政治的なコストは非常に大きいのです(しかも、その政治的コストは、日本が経済大国としてのプレゼンスを高めれば高めるほど大きくなっていきます。)。しかも、「領土拡大のために他国に攻め込むこと」により生ずる政治的なコストを賄ってあまりあるといえるような資源が、これらの地域やその周辺にはありません。従って、憲法第9条があったにもかかわらず、日本が第三国から攻め込まれて第三国と戦争を行うという事態を生じさせる危険は、これまでなかったということができます(そして、軍事行動により領土を拡張することの政治的なコストは年々高まっていますので、日本が第三国から攻め込まれる危険というのは低くなることはあっても、高くなることは当面なさそうです。)。

 一部の右派論壇や右派系ブログ(コメントを含む。)においては、日本人拉致問題や従軍慰安婦等の国際紛争の解決に軍隊を活用することを声高に主張するものもあるようです。しかし、軍事力の行使をした場合には、一定数の国民の生命・身体等を害することを覚悟する必要があり、また、そのような国際紛争の解決手段として軍事力の行使又は軍事力による威嚇を行うことの政治的なコストは非常に大きく、食料その他の基本物資の多くを輸入に頼っている日本が果たして負いきれるものなのかというと多分に疑問ですし、実際、上記の国際紛争というのはそれだけのリスクを背負い込むに値するものなのかということも問題となりうるでしょう。

 憲法第9条の改正を訴える方々からは「自分の身は自分で守るのが当然だ」という言い方がしばしばなされるわけですが、「自分の身を守る」手段としては、第三者からの有形力の行使に抗うだけの物理的な手段を常備しておくという方法に限定されるのではなく、自分の身を攻撃することのコストを様々な意味で高めておくということによっても実現が可能です(実際、「軍事大国の周辺の小国」にはそれ以外には選択の余地がありません。)。あるいは、そのためにこそ軍事大国(具体的には米国)との関係で集団的自衛権を行使できるようにすることが重要だとする考え方もあるかもしれませんが、片務的な条約を締結しない限りは、「第三国に攻め込むことによって第三国と戦争を行う」危険性を高めるものですから、日本に攻め込むことのコストを高める手段としてコストパフォーマンス的にいかがなものかという気はします。

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