a.zさんから「日本の医師は、アメリカの医師と比べて、給与水準が桁違いに低いことはご存じですよね?」とのコメントを頂きました。こういう言い方をするより、「日本の医師の平均年収は○○円であり、これに対しアメリカの医師の平均年収は××円であり、両者は桁が違います」という指摘をしていただいた方が、無駄な手間が省けるように思います。
なお、日本の医師の給与(所得)水準について、今日は自宅にいるので自宅でアクセス可能な資料から見てみることとします。厚生労働省の「第15回医療経済実態調査の結果速報」(平成17年6月実施)の「(参考7)一般病院 職種別常勤職員1人平均給料月額の推移」によると、月額給料+(年間賞与/12)に相当する金額は、「病院長」で約234万円、通常の医師で約118万円とのことです。
他方、フォーブスの記事を日経BP社が翻訳した「やはり医師が上位独占 米国の職業別賃金ランキング」によると、政府の調査データによれば、米国に2万9890人いる麻酔科医の昨年の年間平均給与は18万 4340ドルだった
とのことです。より詳細なデータはこちらで見ることができますが、「Surgeons」(外科医)で$184,150、「Internists, General」(内科医)で$160,860ですから、1ドル115円で計算しても、外科医で約2118万円、内科医で約1850万円ということになります。日本の病院長の平均年収が約234万円×12=約2691万円、通常の医師の平均年収は約118万円×12=約1357万円であることを考えると、「日本の医師は、アメリカの医師と比べて、給与水準がが桁違いに低い」といえるかはいささか疑問です。
さらにいうと、フロリダであればここから、外科医は11万1000ドル(約1276万円)、内科医は3900ドル(約45万円)を医師賠償責任保険の保険料として負担しなければいけないのに対し、日本の医師は年間で5万円程度の保険料を支払えば済むわけです。すると、実際の手取りレベルではあまり変わらない、むしろ外科医についていえば、経済的には日本の医師の方が恵まれているのではないかという気もします。
また、云さんから
億を超える賠償金は「懲罰的損害賠償」と言えませんか?自己の利益による違法行動で損害を与えたならともかく、米国的自由診療ではなく本来患者に益する目的の国民皆保険制度上でなされた診療行為に対し、そのような「莫大な損害賠償」を求めるのはやはり異常でしょう。そして、最近は医療訴訟の賠償金の高額化に従って日本の医療事故保険が破綻しかねないと言われている現状をご存知ですか。
とのご質問を頂きました。
まず、「懲罰的損害賠償」か否かは絶対的な金額によって決まるのではないので、億を超えたからといって「懲罰的損害賠償」とはいえないということになります(懲罰的賠償を命ずる部分については、外国判決といえども、日本国内で執行力を付与してもらえないので、この差は重要です。)。
また、人身事故において損害額が億を超える一番の要因は、特に若年者が死亡し又は重度の後遺障害を負った場合に逸失利益が大きくなるということであり、この事情は、その事故の原因が医療過誤であろうと交通事故であろうと生産物の瑕疵であろうと特に異なることはありません。したがって、道路運送事業法第13条により運送の引き受けを拒絶することが原則禁止されているタクシー運転手が交通事故を引き起こし乗客を死傷させた場合や、学区域内に居住する児童の入学を原則的に拒絶できない小中学校において児童を死亡させてしまった場合にも、億を超える賠償額が命じられる場合があります。とりあえず、「義務教育制度でなされた教育活動に対し、そのような「莫大な損害賠償」を求めるのはやはり異常」だという議論はあまり起こっていないようです。
なお、「最近は医療訴訟の賠償金の高額化に従って日本の医療事故保険が破綻しかねないと言われている」との点については初耳です。どこでそのようなことがいわれているのでしょうか。損害保険会社は、必要があれば保険料の増額により対処するものなので、仮に「医療訴訟の賠償金の高額化 」という事態が発生したとしても、おいそれとは医療事故保険は破綻しないようにできています(何せ、現在が年額5万前後ですから、倍額にしても年10万程度であって、お医者様がおいそれとは支払えない金額にはなりそうにありません。)。
【追記】
云さんのコメントには「アメリカでもテキサス州では医療過誤訴訟改革で25万ドルキャップが設定された様です。その結果、30%医師が増加し、医師不足が解消されたとか。」との表現がありました。ただ、この上限規制の対象は、非財産的損害部分(慰謝料や懲罰的賠償部分)に限定されます。日本の死亡慰謝料の基準がこの程度ですから、この医療過誤訴訟改革により、非財産的損害については、日本の水準にまで引き下げが図られたと表現するのがむしろよいのではないかと思います。
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