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27/08/2008

デマの効果

 特定の診療科目における医師不足の原因を警察・検察のせいにしようという声は大きいものの,医師の数が足りていない特定の診療科目において刑事訴追される割合が顕著に高いことを示す資料は今のところないようです。また,医師不足が比較的早い段階で顕在化していた小児科についていえば,むしろ医療過誤にもとづく損害賠償請求に晒される割合は,外科どころか,内科よりも低く,そういう意味では訴訟リスクが低いのに,不足状態から抜け出せないでいるとすらいうことができます。さらにいえば,民事的な訴訟リスクは概ね賠責保険の保険料率を見るとわかるのですが,日本の医師賠償責任保険の保険料は著しく低額であり,医師の民事訴訟リスクの小ささをかいま見ることができます。

 本当のところは,医師の診療科目間の偏在の主たる要因は,診療科目により,仕事の厳しさと収入等の相関で決まる「待遇」に差があることです。このことの本来的な解決手段は,より厳しい仕事について高い保険点数をつけ,その分楽な仕事についての保険点数を引き下げることにあります。また,勤務医不足の主たる要因は,我が国においては開業医が所得面で非常に優遇されている点にあります(開業医の所得水準が勤務医のそれを大きく上回るというのは決してグローバルスタンダードなことではありません。)。従って,この解決策は,国公立病院や大学病院等の大型の病院が主として担っている高度の医療行為に高い保険点数をつけるとともに,その分,主として開業医が担ってきた医療行為について保険点数を引き下げ,または医師以外の者もこれを行いうるようにするというのが本筋です(使い捨てコンタクトレンズの処方など,医師でなくとも,一定の研修を行った者に行わせることが十分に可能ですし,皮膚病等の慢性的な病気の治療に使う薬剤の処方などは,副作用等の疑いがあるときに医師の診療を受けることを勧告する義務を負わせておけば,逐一医師の処方箋がなくとも,薬剤師のみで処方できるように思われます。)。また,医師の絶対数が不足しているという点については,仮にそうだとしても,医師過剰による競争の激化を恐れた医師会の要請に応じて医学部の定員を削減したことが伸び率鈍化の主たる要因です。民事又は刑事の訴訟リスクを恐れて,医学部の卒業生の多くが医師以外の職業に就いたり,一旦は医師としてのキャリアを開始した者が医師をやめて他の職業に就いたりしたために医師の絶対数が不足したと見るに足りる統計資料はありません。この対策としては,中期的には医学部の定員を増やすことが本筋であり,短期的には,必ずしも医師が行わなくとも済む行為については,順次,医師以外の者も行えるようにすることです。

 もっとも,医師の訴訟リスク等に関してネット上で誤った情報が流布されているのを放置していると,その誤った情報を信じた医学部生や研修医等がさほどリスクが高いわけではない(むしろ低い)診療科を避けてしまい,当該診療科目の人手不足に拍車をかけてしまう危険があります。ネット上での医師・医師もどき並びにそのお追随のお話を聞いていると,産婦人科等に勤務していると,がんがん結果責任を負わされて逮捕起訴され,刑罰を受けているかのように誤解されそうですが,そういう意味では,自分の仕事に一切責任を持ちたくないがあまり福島大野病院事件を奇禍としてここぞとばかりにデマや誇張をばらまきまくっている一部の医師・医師もどき,並びに彼らに迎合してみせているごく一部の法律家達こそが,「医療崩壊」の元凶であるとも言いうるように思います。平成11年から16年までの医療過誤全体の起訴件数が79件であり,そのうちの59件が略式起訴であるというのが実情です。正式起訴を受けても,初犯でいきなり実刑という例はほぼ皆無です。すなわち,量刑相場から言えば,人を死に至らしめておきながらも,医療過誤ということですと,交通事故を伴わない無免許運転やスピード違反と同程度の制裁しか加わっていないのが実情です。民事の医療過誤訴訟が年間約1000件提訴され,そのうち約5割について医師に過失責任が認められるとして,そのうち約0.6%しか正式起訴されておらず,略式起訴されたのを含めても約3%にしかなりません。でも,例えば矢部弁護士のブログなんか見てたら,そんな風に考えることはできず,医師達は,結果責任を負わされて続々と逮捕・起訴されているかのような誤解をしてしまうかもしれません。

 何とも罪作りなものです。

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