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30/08/2008

医療過誤に関する業務上過失致死罪の適用に関して,刑法の謙抑性を支える他の社会的統制手段は機能しているのか

 医療過誤に関する業務上過失致死罪の適用に関して,刑法の謙抑性が語られることがあります。刑法の謙抑性・謙抑主義は,「刑法が発動するのは,倫理的制裁や民事的損害賠償,行政手続による制裁などのような,刑法以外の社会的統制手段では十分でないときにかぎられるべきであ」るとする考え方ですが(川端博「刑法総論講義第2版」54頁),逆に言うと,刑法以外の社会的統制手段が十分でないときに刑法が謙抑的すぎると,社会的統制がとれなくなる危険があるわけです。

 では,医療過誤に関して,刑法以外の社会的統制手段,とりわけ行政手続による制裁は十分に行われているのでしょうか。

 平成20年2月22日に開かれた医道審議会医道分科会では,業務上過失致死(医療)又は業務上過失傷害(医療)で処分を受けたのは,2件(医業停止1年6月が1件,医業停止2月が1件)です。

 平成19年9月27日に開かれた医道審議会医道分科会では,業務上過失致死(医療)又は業務上過失傷害(医療)で処分を受けたのは,2件(医業停止1年が1件,医業停止3月が7件)です。

 そもそも,医道審議会が「刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱う。」との見解を発表したのが平成14年12月のことであり,日本産婦人科医会常務理事 川端 正清「医道審査会の処分について」によれば,全体を見渡しますと、診療報酬不正請求で保険医取消となっているものの他は、すべて刑事裁判で有罪の判決を受けています。民事で有責となったものの、刑事で訴追されなかった例はありませんでした。とのことであり,今回も、医療事故のリピーターは処分の対象にはなりませんでしたとのことです(ちなみにこの発言は,平成16年2月付)。そして,川端常務理事は,今回の処分で、民事裁判を活かした医師の行政処分がなされなかった事については、「民事の判決は事実認定の濃淡がかなりある。裁判官の心証で判決が書かれている面もあり、医師に事実関係を尋ねて、『判決は違う。』と否認されれば処分の材料には使えない。」との判断があったようです。と分析しています。

 医療過誤に関して懲罰的損害賠償制度がなく,それ故,医師賠償責任保険の保険料が低廉に抑えられている我が国において,行政手続による制裁が,刑事裁判での有罪判決等を抜きにしてはほぼ課せられることがない現状において,医療過誤に関する業務上過失致死罪の適用を謙抑的にして大丈夫なのだろうかということが不安になってしまいます。

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