自治体の財政と医療
novtanさんは,
医師全体の処遇を上げろじゃなくて人増やせなんだけどなあ。利にさとい医師が開業医になるのが医療崩壊の原因だとしたら、勤務医の待遇(というのは収入だけじゃなくて労働の質ね)を上げれば改善に向かうだろうし、絶対数が足りなければ増やさなければならない。どちらにしても医療費を増やさないとどうしようもないわけですが。と仰っています。お金が無尽蔵にあるならば,そういうことも可能かもしれません。しかし,国もほとんどの自治体も,財政に余裕がありませんから,開業医の所得水準が大学・大学院卒男子の全年代平均給与の3倍以上ある状態を放置しつつ,勤務医の給与水準をそのレベルにまで引き上げることは,よくよくそれ以外の分野での公的支出を絞らなければ難しいし,それをやってしまうと税金の使い方として非常にバランスを欠くことになります。
安い,安いと医師達からは馬鹿にされ,定員を全然満たせないでいる都立病院だって,2007年の段階で医師に平均1200万円程度の給与を支払っていたわけで,これだって,都庁職員の給与体系を考えたら,かなり突出して大金を支払っているわけでです。この給与水準で満足する医師が相当数いれば定員一杯まで都立病院の医師の数は増えるし,そうすれば中の医師の勤務シフトは大分楽になるわけでしょう。他方,都立病院の医師の給与水準を平均2800万円にしようと思ったら,都立病院の医師数約800人×1600万円=128億円かかるわけで,その分どこかで支出を減らさないといけないわけです(都立病院の医師の平均年収を2800万円に引き上げるために都税を増税しますなんて公約を掲げたら,さすがに議員も都知事も落選するのではないかという気がしますし。)。だからって,大阪府ではないのだから,私学助成金を廃止して,医師等の特権階級の子女以外は都立高校の入試に落ちたらあきらめて中卒で働け,生まれてくるところを間違えたのがいけないのだから自己責任だ,みたいな話はできないのです。
そういう意味で言えば,東京都は,都立病院において医師を増やすためにやれることはやってきたと言いうるのであって,ただ,大半の医師にとっては,資格取得5年目(30歳くらい)で,全給与所得者の平均年収の2倍,全病院平均で全給与所得者の平均年収の3倍なんていう給与水準では,ばかばかしくてとてもではないがそんなところでは働けないとして拒絶されてしまっているからこそ,都立病院は医師の定員を充足することができず,残った医師が超過勤務を強いられることになるわけです。結局,都立病院に残った医師の労働時間が長くなった原因は,他の医師達の給与についての要求水準が高いことに帰着するのであって,それだけの高い要求水準が維持できるのは,医師会の政治力のおかげで,開業医の所得水準が尋常でなく高いからです。
そうなってくると,病院の勤務医不足を解消するには,開業医の所得水準をまず常識的な範囲まで引き下げなければならないという結論に到達するわけです(実際,これによれば,米国のPrivate PracticeのFamily doctorの所得の中央値は12万5000ドル(約1200万円)なわけで,日本の開業医の所得水準は米国のそれと比べても相当高いのが現実です。
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