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19/10/2008

被害の大きさを無視した議論は無意味

 次は,続・院長の独り言というブログの「医療『事故』と医療『過誤』」と題するエントリーを見てみましょう。

 このブログ主は,

この裁判が起きたことで医療界に激震が走った理由は、「治療に於いて医師の判断そのものに過失があるかどうかを問われた」からだと思う。
と述べているのですが,医師の判断そのものに誤りがあり,その判断の誤りに基づく治療行為が原因で患者が死亡した場合に,医師が業務上過失致死罪に問われ得るのは当然のことであって,そんなところで慌てふためかれても困ってしまいそうです。このブログ主は,例えば、虫垂炎で開腹手術をしたが、開腹しなくても抗生物質の投与で治ったかもしれないので判断ミスだ、と言われるのと同じようなものではないか。と仰っていますが,それは全然違う話です。生命に与える危険度を無視した議論というのは,いわば,ためにする議論にすぎないように思います。

 このブログ主は,

医師が選択した治療法が適しているのか否かが争点にされるようになると、日常診療に於いて正しいと思ってしたことでも、結果が悪ければ全て訴訟になり得ることを意味する。医師としての知識や経験、適性や技量などが裁判で論議されるようになると、必ず『萎縮医療』となり、医療の進歩は望めなくなる。
とも仰っているのですが,どの段階の「ミス」を問題視するのかと言うことと,各段階において医師の裁量の範囲をどこまで広く認めるのかと言うこととは別の次元の問題ですから,上記予測はかなり的を外しているといえます。なお,難易度の高い(患者の生命を却って損なう危険性の高い)治療行為に関しては,当該医師がその治療行為を実践することの当否を判断するに当たって,当該医師の知識や経験,適正や技量などが重要な考慮要素となることもまた自然な話です。

 また,このブログ主は,

この「事件」以降、産科を標榜する病院は減少の一途を辿ることになった。医師達が一生懸命治療をしても、結果が伴わなかったり、治療が困難な疾患で、予想されることとはいえ、死亡したり後遺症を残してしまうと犯罪者扱いされてしまうため、外科系の診療科や救急病院などの現場では、「触らぬ神に祟りなし」の傾向が優位を占め、難易度の高い医療は急激に敬遠されるようになったのである。
とも述べていますが,福島大野病院事件で執刀医が逮捕される前から産婦人科医は減少傾向にあったのであり,時間的な順序が合っていないように思います。さらにいうと,飯田英男先生の書籍を読む限り,産婦人科医は,民事訴訟を提起される数こそ多いものの,業務上過失致死傷罪の嫌疑で起訴されることは極めて稀(といいますか,業務上過失致死傷罪で起訴されているのは,むしろ難易度がさほど高くない医療現場の方が圧倒的に多い。)なのです。そういう意味では,仮に福島大野病院事件を契機に産婦人科をたたむ病院が現れたとして,一部の医師や,これに迎合する一部の法律家が,過度に医師の刑事訴訟リスクを煽ることの方が強い原因力を有しているのではないかという気がしてなりません。

 このブログ主は,

外来で点滴していて漏れてしまったら訴えるか?採血で失敗したら訴訟沙汰なのか?大事にならないなら穏便に済ますが、結果的に死亡すれば問題なのか?注射を失敗して出血するのも、手術中に大事な血管を千切ってしまうのも、元はと言えば同じようなミスなのだが、その影響は全く違う。
と述べていますが,同じ種類のミスであっても,結果として第三者に与える損害が軽微であれば宥恕されやすいのに対し,これが重篤であった場合には宥恕されにくくなるのは当然のことです。制限速度40キロの道路を60キロで走行したって,何事もなければ特に問題視されずに済むとしても,その結果,側面の歩道から飛び出してきた子供を避けられずに轢き殺してしまえば,そのスピード違反が問題視されます。ブレーキとアクセルを踏み間違えても,物損で済めばさほど問題視されませんが,その結果通行人を轢き殺してしまえばやはり業務上過失致死罪に問われる可能性が高まります。

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» 被害の大きさを無視した議論は無意味。 [沼地の日記]
刑事裁判と民事裁判の区別もついてない医師..... 確かにこれは結構いると思います。 と言うか、私もよく判ってなかったです。 なんか警察に逮捕されるくらい悪いことしたら刑事裁判、それほどじゃなくても被害者が納得できなかったら自力で起こすのが民事裁判みたいに思って... [Lire la suite]

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