国籍法改正とDNA鑑定〜ドイツでの議論
産経新聞が次のような報道をしています。
国会図書館によるとドイツでは1998年、父親の認知と母親の同意だけで国籍を取得できるようにしたが、これが悪用された。滞在許可期限が切れた外国人女性が、ドイツ国籍のホームレスにカネを払い、自分の子供を認知してもらってドイツ国籍を取得させ、それにより、自分のドイツ滞在も可能にする-などの事例がみられた。
このため今年3月、父子間に社会的・家族的関係がないのに認知によって子や母親の入国・滞在が認められているケースに限り、認知無効を求める権利が、管轄官庁に与えられた。
ただ,この記述は不正確であって,1998年に行われたのは国籍法の改正ではなく(父親のみがドイツ国籍を有する場合に父親の認知のみで子にドイツ国籍を与える旨の法改正がなされたのは1993年),父子間に生物的な親子関係がなくとも社会的・家族的関係があれば父親がこれを認知し,法的な意味で親子として認める家族法の改正です(国会図書館調査及び立法考査局発行の「外国の立法」2008年4月号に掲載された齋藤純子「【ドイツ】 偽装父子関係の認知無効を可能にする法律」にはちゃんとそう書かれています。もっとも,ここで紹介されている「2008 年3 月13 日制定の「父子関係の認知無効のための権利を補足する法律」の具体的な条文が日本文又は英文で見あたらないし,そのような法律が制定されたことを示す資料自体,他に見あたらないのですが。)。で,今年3月の法改正も,上記記述による限り,この枠組み自体は壊すことを意図していないので,認知に際してDNA鑑定を必須とすることは想定されていないように思います。
ドイツでも,父親のみがドイツ国籍を有する場合に父親の認知のみで子にドイツ国籍を与える旨の法改正を行った際には日本と同じような異論があったようなのですが,結局,二宮周平「国籍法における婚外子の平等処遇」によれば,ドイツへの移民を目的として濫用される危険性についても、「国籍法における父子関係の確認について、家族法と異なった基準を用いることは、ほとんど考えられない。嫡出子の血縁による国籍取得も、家族法上の規定にもとづいて規律されているのである」と述べ、家族法における父子関係の成立の基準に従うことを明言し
たようです。そして,この考え方は,2008年3月の法改正後も変わりません。
なお,生物学的な父子関係の有無を証明するためにDNA鑑定を行う際になすべき配慮については,「外国の立法」2008年5月号に掲載されている,「【ドイツ】 父子関係確認の新たな手続―民法改正」という報告書が参考になります。当該の子又はその法定代理人の認識及び承諾のないまま行われたDNA鑑定は、子の有する情報の自己決定権(一般的人格権の内容として基本法第2条第1項、第1条第1項で保障される)を侵害するものであり、その結果を嫡出否認の裁判手続において証拠として用いることはできない
との連邦憲法裁判所の判断がまずあり,これを受けて,.法律上の父、子及び母の三者は、それぞれ他の二者に対して、嫡出否認の手続とは別個に、遺伝子上の血縁関係の調査を行うことを承諾し、当該調査にとってふさわしい遺伝子上の検体の採取を受忍することを求めることができる。承諾が拒否された場合には、家庭裁判所は承諾に代わる裁判を行い、検体採取の受忍を命ずることができる
ということと,ただし、上記請求を行った者の利益を考慮してもなお、父子関係を争うことの結果が期待可能な限度を超えて年少の子の福祉に著しい害をもたらす場合には、当該請求は認められない
ということを中核とする家族法の改正を行ったということです。
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