判例は読んでから引用しよう。
日本の認知制度は血統主義ではなく「意思主義」
「真実自分の子ではない(たとえば二股女性とつきあってた別の男性の子)と知っているが、それでもかまわない。自分の子にしたい」というのを広く認めるのが判例・通説(血統主義・真実主義は学説でもほとんど皆無)
との嘘を垂れ流しているエントリーがあります。
しかし,最判昭和53年4月14日判時894号65頁は,認知者の妻及び子の被認知者を相手方としてする認知無効確認請求が、たとえ被認知者の実母である右妻において認知後五十数年の間、認知者と被認知者との不真実の親子関係を放置しており、かつ、認知者の死亡後になされたものであるとしても、右請求権の行使は信義に反せず、したがつて権利の濫用に当たらないとした原審の判断
を是認しており,生物的父子関係のない相手を認知してもその認知は無効であるとするのが判例です。
このブログ主は,日本の認知制度が「意思主義」であるとする根拠として「平成18年07月07日 最高裁判所第二小法廷」を引用します。しかし,この判例の事案は,嫡出子に関するものであって,「認知」は関係がありません(嫡出子についての親子関係不存在確認請求については,嫡出否認訴訟の出訴期間が,夫がこの出生を知ったときから1年以内とされている(民法777条)こととの関係で,いろいろな考え方があり得ます。)。
なお,このブログ主は,自身が引用された最高裁判例の判決文を読みさえすれば,そこでは,
実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。
とした上で,
真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲乙夫婦の嫡出子として記載されている丙が,甲乙夫婦との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは,虚偽の届出について何ら帰責事由のない丙に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。そして,甲乙夫婦が既に死亡しているときには,丙は甲乙夫婦と改めて養子縁組の届出をする手続を採って同夫婦の嫡出子の身分を取得することもできない。そこで,戸籍上の両親以外の第三者である丁が甲乙夫婦とその戸籍上の子である丙との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合においては,甲乙夫婦と丙との間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより丙及びその関係者の被る精神的苦痛,経済的不利益,改めて養子縁組の届出をすることにより丙が甲乙夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無,丁が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである。と判示されており,事実主義を貫くことが当事者に非常に酷となる場合の救済的な意味合いをもった裁判例であることが理解できるのではないかと思います。
なお,このブログ主は,
2008年 国籍法改正施行。施行と同時に毎日数十万人単位で認知。
父親と名乗るホームレス・多重債務者が区役所に押しかける。認知は意思主義のため取締り断念。
中国人満載のフェリーで続々来日。乗員全員が「19歳11か月」との公証を携えて来た。新日本人となる
と想定されているのですが,出生時に母親が既婚であれば,当時の母親の配偶者との間に親子関係が存在しないことを確定しなければいけませんので,すぐに認知届を受け取ることは難しそうですし,中国は戸籍制度がありますので,「『19歳11か月』との公証を携え」てもそれだけで「19歳11カ月」として扱ってくれるかっていうと多分に疑問です。また,役所というのは一般に形式的審査は得意なので,出入国記録等から,当該子の母親と当該子を認知しようとする者が当該子の出生時から推測される妊娠時に同一国・地域に所在していたことが明らかになっていなければ,書面審査だけで認知届をはねのけるのではないかと思います。そうすると,「ホームレス・多重債務者」では荷が重そうです。
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