国籍法3条1項の改正に反対することはエネルギーの無駄である
最高裁判所の違憲判決を受けて行われている国籍法改正について,相変わらずの人たちによる反対運動がネットを中心に熱心に行われているようです。
ただ,なんだか無駄なエネルギーを使っているようにしか私には見えません。というのも,上記国籍法改正を阻止できたところで,彼らが望んでいる社会にはならないからです。
最判平成20年6月4日判例集未登載(但し,最高裁のウェブサイト等でダウンロード可)の判決文を見てみれば,そのことは明らかです。最高裁は,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子
についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとする
という解釈を,国籍法3条1項の合憲的で合理的な解釈
として,現行国籍法の解釈として,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められる
と判示し,その上で,第一審判決(東京地判平成18年3月29日判タ1221号87頁)を破棄した原審(東京高判平成19年2月 27日判例集未登載)を破棄し,第一審でなされた確認判決(第一事件から第九事件までの各原告らが日本国籍を有することをいずれも確認する。)を確定させたわけです。
従って,国籍法の改正を阻止したところで,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子であって,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるものについて,国籍取得届が出されたときには,法務局がこれを認めないとの通知を発することは事実上できないのです。なぜなら,そんなことをすれば,上記裁判と同様の裁判を提起され,その場合には,国が敗訴することが明らかだからです(注1)。
すなわち,上記国籍法改正を阻止してみたところで,法務局を困らせることにしか繋がらないのであって,仮にこの反対運動並び右派国会議員等からの圧力に屈してこの種の国籍取得届に対して国籍取得を認めない旨の通知を発する法務局が現れたところで,子供の親と法務局と裁判所に訴訟のための無駄な費用と労力をかけさせるだけに終わるのです(最高裁の大法廷で下された合憲限定解釈に敢えて逆らおうとする下級審というのもあまりいないように思いますし。)。
ある種のゼノフォビアのために,国に無駄な仕事をさせようとする人々を,「愛国者」と呼ぶことに,私は大いなる躊躇を感じます。
注1
そういう意味ではわざわざ国籍法3条1項を改正する必要はないのですが,でも,最高裁判決での合憲限定解釈があったことを知らないと正しく読めないという状況は本来望ましくないので,最高裁の解釈通りに読めるように条文を改めるっていうのは,方向としては正しいのです。
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