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24/11/2008

むしろ,自民党が心配

 国籍法改正問題についての19日の自民党の参院政審勉強会での議論内容を産経新聞の阿比留記者がブログで公開していますが,もし本当だとすると,ゆゆしき事態です。

某議員A 最高裁の判決自体が疑問だ。原告の中には父親がどこかに行ってしまっていない子供がいた。そういうケースでも国籍を付与するとなると、事実上、防止策も機能しなくなる。憲法14条違反というが、そもそも憲法10条では、国籍については別の法律で定めると書いてある。日本人であることを証明することが大事であって、行政府は厳格に対応するべきだ。DNA鑑定を導入すると問題が出てくるというが、犯罪捜査では使っている。主権者の権利を付与することなので、主権者の地位を簡単に渡してしまうことになる。子供たちは帰化申請すればいい。ところが申請せずに憲法判断にもってきた原告の政治的意図がある。衆院では可決されてしまったが、良識の府である参院では徹底的に審議をしないと汚点になる。

とのことですが,法令の合憲性に関する最終的な判断を下す権限は最高裁判所にあり,立法府も行政府もこの判断に従わなければいけないことは小学6年生くらいで知っていて然るべきことであり,法令を違憲とする最高裁判決が下された後に立法府が「最高裁の判決自体が疑問だ」といってみても無意味です。

 また,原告の中には父親がどこかに行ってしまっていない子供がいたとのことですが,現行民法では,遺言により認知を行ったり,父親の死後検察官を被告として認知請求をするなどして,父親がそもそもこの世に存在しない状態で認知が行われることだってあるのであり,そのような場合に国籍を付与するのに何の問題があるのか,私には理解が不可能です。

 また,憲法第10条は「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」とありますが,そのことは,この「法律」が憲法第14条に反する差別的なものであってもよいということを意味していません。法律を作る国会議員が,そのような憲法論の基礎の部分を理解されていないようでは困ってしまいます。

 さらに,「DNA鑑定を導入すると問題が出てくるというが、犯罪捜査では使っている」とありますが,犯罪捜査においては,被疑者が嫌だといっても,令状を取ってくれば強制的にDNA鑑定のための資料として体細胞を採取できますが,認知請求訴訟では現行法上そんなことはできませんし,それをできるようにする法改正を行うハードルはかなり高いです。

 子供たちは帰化申請すればいい。ところが申請せずに憲法判断にもってきた原告の政治的意図がある云々との件についていえば,当該事件の代理人が,

子どもと母に命じられた強制送還を阻止するために、なにかいい方法ないかな、と考えてはじめた裁判でした。国籍法3条の届出用紙は「父母の婚姻及び父の認知により嫡出子の身分を取得した。」にチェックを入れる形式になっているのだけど、ある日、ふと思いついて、用紙に手書きで「国籍法3条は憲法違反だから」という項目を書き足して、そこにチェックをいれて、スタッフに「とにかく法務局に行って出してこいよ」といいました。その届出は、あたりまえですが、不受理となって、退去強制令書取消訴訟に追加するかたちで、国籍裁判が始まったのでした。

とし,

もしも、この事件の裁判中に国が「国籍訴訟の取下げと在特、バーターで」ともちかけてきたら、迷うことなくのっていたでしょうね。

しているとおりの話であって,政治的意図なんて特段内容に思われます。

 また,

佐藤正久氏 国籍は非常に重要だ。しっかり議論してほしい。偽装(認知)をやろう、商売でやろうという人たちの偽装をどう見破るか。届け出の窓口は市町村役場と法務局だが見破れるかどうか疑問だ。役場は人が少なくて忙しい。法務局も大きなところもあれば、小さいところもある。

とのことですが,渡航歴からみて,当該子を妊娠したと想定される期間内にその子の母親と認知者たる男性とが同一国・地域内にいたことが公的な書類で証明されなければ,役場は基本的に認知届を受理しないのではないかと思います(心配なら,法務省から,そのような場合は原則認知届を受理しないように通達を出せばよいことです。)。

有村治子氏 歴史の評価に耐えうるのか。DNA鑑定は万能薬ではないという意見が出たが、それ以外に偽装を見抜く手だてはない。家族関係の絆を証明する手だてとしてDNA鑑定は選択肢に入るのではないか。外国人に対する差別だというが、国家の出入国で区別するのは当たり前なんだから、国籍でも区別があっていい。

とのことですが,むしろ妄想に近いゼノフォビアに屈して立法府が最高裁の違憲判決を完全と無視することの方が歴史の評価に耐えうるのでしょうか。なお,渉外関係ですと,偽装結婚よりも,偽装認知の方が,形式的な書類を整えるのは大変だと思うのですけどね。また,外国人に対する差別だというが、国家の出入国で区別するのは当たり前なんだから、国籍でも区別があっていい。とのことですが,この問題は何をもって日本国民となすのかという問題なのですから,「国籍でも区別があっていい」というのはトートロジーです。

 山谷氏 衆院ではたった3時間しか審議していない。虚偽かどうか調査する方法を通達で定めるとあるが、これでは私たちに見えないところで決められてしまう。付帯決議して修正に持ち込まなければ、とても国民の願いに答えられない。審議入りする前にもんでもらいたい。

とのことです。ただ,薬事法について最高裁の違憲判決が下された後の薬事法改正については,昭和50年05月29日の衆議院社会労働委員会において,質問が6個なされただけで委員会を通過していますし,同日の衆議院本会議では質疑すら行われることなく可決されています。最高裁で違憲と判示された部分を修正するための法改正って,そんなものではないでしょうか。

 また,虚偽かどうか調査する方法を通達で定めるとあるが、これでは私たちに見えないところで決められてしまうとの点については,法律で大枠を決めて,その実施のための詳細を政令等で決めるという立法手法自体を今後否定され,法律一本主義に変更されるお覚悟なのか,興味のあるところです。

 また,

付帯決議して修正に持ち込まなければ、とても国民の願いに答えられないとの点についていえば,そのような修正を望んでいるのは,国民のうちのごく一部です。それを「国民の願い」と表現するのはオーバーなのではないでしょうか。

某議員B 罰則が厳しくても偽装結婚は相当ある。男性は暴力団員が多く、刑罰を科しても何とも思っていない。DNA鑑定を使うのは当然だ。我々も選挙でいっぱい、いっぱいになって知らなかった。反省しているが、法務省はどういう手を使ったのか分からないが、3時間で衆院を通すやり方に失望している。

とのことですが,偽装結婚の一方当事者たる男性の側で暴力団員ってあまり聞かないように思うのですが,いかがなものでしょうか。

 なお,法務省はどういう手を使ったのか分からないが、3時間で衆院を通すやり方に失望している。とのことですが,最高裁で違憲と判示された部分を修正するための法改正で,衆議院だけで3時間も確保するというのは,むしろ長い方ではないでしょうか。

衛藤晟一氏 日本の家族は完全に血統主義ではない。文化概念としての家族という考え方がある。しかし、国籍ではハッキリした方がいい。新しい時代の変化の中でDNA鑑定が可能になったから、使えばいいじゃないか。

とのことですが,民法上の実子概念と,国籍法上の実子概念とに齟齬を生じさせるのってまずくないでしょうか。それとも,フィリピンなどで現地の女性を孕ませて逃げてきた男は,DNA鑑定のための血液採取などを拒み続ければ,強制認知をさせられることもなく,扶養義務も果たさず逃げおおせるという「卑怯な国,日本」を作り上げようという算段なのでしょうか。

戸井田氏 「後で気が付く寝小便」という言葉があるが、国籍法をずっとみていてそう思う。この中で国籍法の一部を改正する法律案を全部理解している人手を挙げて下さい(約30人の出席者、誰も手を挙げず)。あらあらは分かっていると思うが「最高裁の判決が出たのだからそれ以上追及する余地はない」と思考停止になっていると思う。これをよく調べると、将来日本人の血を引いてなくとも日本人になれる。そういう状況が出来上がってくる。偽装結婚もあり得る。その可能性を探っていったらある意味恐ろしい部分がある。

 使用することわざの選択として,普通に「後の祭り」ではいけなかったのでしょうか(国会議員なのだから,「品位」というものを考えた方がいいのではないでしょうか。)。それはともかくとして,今回の国籍法改正法案を読んで,戸井田議員が主張しているように理解できる人は,それは少ないと思います。何しろ,市町村役場の戸籍係は概ね無能であり,かつ,日本国籍を有する男性はお金を積まれればほいほいと偽装認知を引き受けてしまうという前提でお話をされているようなので。将来日本人の血を引いてなくとも日本人になれる可能性を完全に排除したいのであれば,日本国籍を有する男女間の嫡出子についても,DNA鑑定を行う必要があります(日本国籍を有しない男女間に生まれた子供を「藁の上の養子」とする方法があるからです。)し,分娩を行った者を母とする運用を替えなければなりません(日本国籍を有しない男女の卵子と精子から作った受精卵を日本国籍を有する女性に受胎させて出産させた場合,現行法では,生まれてきた子供は「母」が日本国籍を有するので,日本国籍を取得できます。また,夫が日本国籍を有し,妻が日本国籍を有しないという夫婦において,妻が日本国籍を有しない男性との不倫の結果として授かった子供についても,夫が嫡出否認の訴え等を起こさなければ,日本国籍を取得することになります。)。

 また,「偽装結婚もあり得る」とのことですが,今回の国籍法改正は,婚姻をしていない男女間の子の国籍取得を可能とするものですから,偽装結婚はとりあえず関係のない話です。

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