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27/11/2008

じたばたするのも,人間の性なんです。

 前回のエントリーについて,「鉄牛」さんという方からコメント欄を通じて質問がありましたので,一部をご回答します。

 仮に認知させたい側(たぶん母親)が居るとして、そして認知したくない側(たぶん父親)が居るとして、この場合は、そもそもDNA鑑定するしないに関わらず認知されないのですから、子供が日本国籍を取得することは出来ないのではないでしょうか?

とのことですが,民法787条は子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。と規定しており,父親が認知したくないといっても認知請求訴訟で敗訴すれば認知がなされ,この父と子との間には法律上の親子関係が成立します。今度の国籍法改正法案によれば,認知請求訴訟に勝訴した結果日本国籍を有する男性の「子」となった者も,日本国籍を取得することができることになります。

そこで訴訟が起きた場合、被告側である「認知したくない側」はその正当性を証明するために、DNA鑑定は当然受けるのではないでしょうか?

とのことですが,身に覚えがなくて認知を拒んでいる場合はそうかもしれませんが,身に覚えがあるのに認知をしたくないと考えている場合にはDNA鑑定を受けることは却ってやぶ蛇になりますので,DNA鑑定を頑として回避することが少なからずあります。特に,配偶者がおり,それなりにうまくいっていた場合や様々な理由で現在の配偶者と離婚したくないという場合には,だめだとうすうすわかっていてもじたばたしたがるというのは,人間の性なのではないかと思います。

 で,認知請求訴訟というのは,DNA鑑定なんて技術が発達する前から存在しますので,DNA鑑定を行うまでもなく,父子関係が認められています。典型的な例としては,被告たる男性と,原告たる子の母親が,原告たる子を妊娠したと目される期間内に被告たる男性と性的関係を結んだことが立証され,かつ,そのころ他の男性と性的関係を結んだことが立証されなかった場合には,被告たる男性がDNA鑑定を拒んだところで,かなりの確率で父子関係の存在が認定されます。また,原告たる子を妊娠したころにその母親と性的関係を結んだとの事実を否認したのち,原告からのDNA鑑定の申立に対して,被告が鑑定資料の提出を拒んだ場合,父子関係の存在について法律上の事実推定を行う立法例もあるやに聞いていますが,そのような立法例がない我が国においても,そのような被告の態度から,原告たる子を妊娠したころにその母親と性的関係を結んだとの事実の存在を推認することは十分に可能です。

むしろ「警察がその子の「父」(と目される男性)の居場所を探し出して~」というのは、いくばかのお金をもらって偽装認知した後に、行方をくらましてしまう父親のほうが多いのではないかと、私は考えてしまうのです。


とのことですが,「行方をくらます」と現在の社会的関係をいったん捨てて新たな土地で新たな社会的関係を構築し治さなければいけないので,「いくばくかのお金をもらっ」たくらいでこれを行うのでは元が取れません。かといって,それで元が取れるほどのお金を支払った場合,今度はお金を支払う側が元が取れません。というのも,それだけのお金があれば,母の本国に残ってそのお金を使って生活した方が,日本国内で生活保護を受けて生活するよりも豊かな消費生活を送ることができます(日本は,周辺諸国と比べて日常生活に必要なコストが格段に高いですし,生活保護の受給額はさほど高くありません。)。従って,そのような例は,国籍法改正後であっても,ほとんど起こらないかと思います。実際,偽装結婚の例でいえば,婚姻届を行った後日本国民たる男性の側が「行方をくらま」すという例は,私は聞いたことがありません。

 嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認訴訟,そして認知請求訴訟などの裁判例をじっくり読んでいくと,親子関係を巡る様々な人間模様を学ぶことができ,国籍法改正反対論にしばしば見られる薄っぺらな人間観を脱することができるのではないかという気もします。

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