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11/01/2009

ノーワーキング・リッチ

 池田信夫先生が昨年ネット上で流行らせた言葉の一つに「ノーワーキング・リッチ」というものがあります。

 ただ、池田先生が「ノーワーキング・リッチ」の例として紹介された例は、「ノーワーキング・リッチ」としてはいささか特殊なものであって、それをもって世代間対立を煽ったりするのはいかがものかという気がします。中高年以上の正社員のほとんどは、池田先生が描いたような、「ライオンズクラブの会合に出たり、地元企業とのゴルフコンペに参加したりするのが主な仕事」などという環境にはないし、2000万円もの年収には届きません。

 「ノーワーキング」でも「リッチ」な人々の例として普通に思いつくのは、株主等や地主等の生産手段の所有者なのだと思うのですが、池田先生の「ノーワーキング・リッチ」攻撃の矛先がいささかもそちらに向かわないのか、不思議です。企業活動の成果は、会社の所有者たる株主と、会社の経営者と、労働者との配分されるわけですが、このうち、株主のみは、「ノーワーキング」であっても配当を受けられる立場にいるわけです。しかも、この「株主」という地位は、しばしば、本人の働きとは無縁の、「相続」という形で転がり込んできます。

 そして、これによれば、2000年から2007年にかけて、労働者が受け取る配当(給与等)の総計は約6兆円減少したのに対し、この期間株主が受け取る配当の総計は約9兆円増加しています。すなわち、企業活動による生産量の増加分を労働者に配当せずに経営者と株主とで分け合ったのみならず、労働者への配当分を一部奪い取って経営者と株主とで分け合ってしまったのがこの7年ということになります。すなわち、「ワーキング・プア」は、世代間闘争に敗れたが故に貧しくなったのではなく、階級間闘争に敗れたが故に貧しくなったのです。

 したがって、この間顕在化した「ワーキング・プア」対策としては、そもそも「パイ」自体が縮小した「労働者枠」の中で「中高年正社員→若年非正規雇用労働者」への配分比率の変更等による富の移転によるよりは、「株主→若年非正規雇用労働者」への富の移転による方が合理的であるといえます。それには、「労働者枠」の「パイ」自体を2000年の水準に戻し又はさらに拡大させるなかで、増加分が非正規労働者に回るような政策誘導を行うなり、株主等への配当金への課税を強化した上で、税収の増加分を非正規労働者の生活改善に用いる等の方法があり得るところです。

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