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01/02/2009

私も、雇用問題についてのまとめ

 池田先生が「雇用問題についてのまとめ」というエントリーをアップロードしているので、私も若干まとめてみることにします。


  1.  福祉政策が異なる社会において「失業率」の高低を比較することは意味がない。:経済的弱者に対する福祉政策が貧弱な社会では、自立的に生活できる程度の給与水準に至らない就業者が増加するため、失業率が低めに算定されがちである。そのような原因で失業率が低下しても、それは国民全体の幸福には繋がらない。

  2.  「解雇規制を強めることは失業率を高める」とはいえない。:解雇規制が緩やかな制度のもとでは、好況期には労働市場が加熱しやすい反面、不況期には労働者が大量に放出されるので、全体としてみれば、解雇規制の強弱と自立可能労働者比率との間に特段の関係はない。

  3.  労働者の過小保護は内需を低下させる:解雇規制が緩やかな制度のもとで労働者が常に他の労働者との価格競争に晒され、その結果、一般労働者の所得水準が、生物として生存を継続するのに最低限必要なラインに近づいていくと、生存に最低限度必要な商品・サービス以外の商品・サービスの国内需要は衰退の一途をたどることになる。また、解雇規制が緩やかな制度のもとでは、住宅、自動車等の通常長期ローンを必要とする商品等を購入が回避されるために、内需を牽引するこれらの産業が衰退の一途をたどることになる。

  4.  問題は「世代間格差」ではなく「階級闘争」だ:企業においては、Aという従業員集団がαという労働条件でも集まってくる以上、Bという従業員集団の労働条件がβからβ-に引き下げられたからといって、Aという従業員集団の労働条件をα+に引き上げるインセンティブを有しない。Bという従業員集団の労働条件がβからβ-に引き下げられたことによる余剰は、経営者と株主とで山分けされることになる。したがって、B=中高年正規労働者の労働条件が引き下げられれば、A=若年非正規労働者の労働条件が改善されるというのは、幻想に過ぎない。

  5.  長期雇用の利点は、法的に保護されて初めて発揮される:企業との間で長期雇用契約を結んでも企業の都合で一方的に易々と契約の解除が可能となったのでは、従業員は長期雇用を前提とした行動を取り得なくなり、長期雇用の利点は発揮されないこととなる。

  6.  労働者の所得水準を低下させつつサービス業の労働生産性を高めることはほぼ不可能である:労働生産性は「付加価値 ÷ 従業員数」で算出され、「付加価値」とは企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値のことをいう。その計算式は統計主体によって異なるが、いずれにせよ、中産階級が崩壊し、労働者階級の経済状態が悪化すると、国内の労働者階級を主たる客層とするサービス業等は、サービスの価格を上昇させることが難しいことはもちろんであって、むしろ価格の下げ圧力が高まることになる。また、サービス業の多くは労働集約的であり、従業員一人あたりの時間あたりのサービス産出量には飛躍的な向上は期待できない。従って、経営者・資本家と労働者との間の所得格差を押し広げつつ、サービス業の労働生産性を高めよと言ってみても、それは無理を強いるものである。

  7.  需要不足故の不況で、労働者保護を撤廃・削減すれば、不況をさらに促進する:今回の不況は、生産の効率性に問題があるのではなく、以前より二極分化の進行により内需が衰退していたのに加えて、サブプライムローン問題等で国外の金融機関に問題が生じた結果外需も急激に落ち込んだことによるものであるから、生産の効率性を向上させることは不況の克服には繋がらない。むしろ、そのことにより労働者への配分が低下すれば、さらに内需が冷え込むため、不況はますます悪化することになる。


 総じて言えば、新自由主義を振りかざして、企業が生み出す富の労働者への分配を減らしていけば行くほど、「需要不足」ということで企業にしっぺ返しが行く構図になっているということです。

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