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10/02/2009

雇用コストは、見方を変えれば、需要の原資である。

 池田先生はあくまで、昨今の労働者階級の困窮の責任を「中高年正社員」にのみ押しつけようとされているようです。

 

ある経営者が、正社員を雇うか派遣にするか迷っているとする。正社員を雇うと絶対に解雇できないとすると、生涯賃金は大卒男子平均で2億7000万円だ。社会保険や年金・退職金を入れると、4億円近い大きな固定費になる。他方、派遣の賃金が正社員と同じだとしても、業績が悪くなったら契約を破棄できる変動費だ。たとえ生産性が低くても派遣を雇うことによってリスクをヘッジできるので、経営者は派遣を選ぶだろう。しかし正社員の解雇が自由になったとすると、正社員と派遣のコストは同等になり、経営者は生産性の高い正社員を選ぶだろう。

 もちろん、現行の労働者派遣制度のもとでは、派遣労働者から賃上げ要求をしてくることはないので、正社員を雇うか派遣にするのかを経営者が自由に決定できるとしたら、(少なくとも経験不足がさほどマイナスにならない、マニュアル化の進んだ労働であれば)派遣を選択する方が、その企業単体で見れば合理的でしょう。そして、法改正がなされ、労働者派遣の期間制限が撤廃された場合、従業員は全て期間の定めのない派遣労働者で置き換えるのが、その企業単体で見れば合理的でしょう。何といっても、賃上げ要求を受けることがないのですから。そして、正社員の解雇が自由になったとすると、経営者としては、正社員についても賃上げをする必要がない(賃上げを要求してくる労働者は直ちに解雇して、より若くて賃金の要求水準の低い労働者に置き換えればいいわけですから、20歳前後の独身者に最低限必要な給与水準を全世代の労働者に押しつけることができることになります)のですから、その企業単体で見れば合理的です。

 しかし、それはごく少数の企業のみが行うのであればそれらの企業の利潤が増大するという効果が生じますが、それを社会全体で行った場合には、企業活動により生み出された商品やサービスを一体誰が購入するのだろうか、その原資はどこから出てくるのだろうかという疑問が当然生じます。池田先生は、一貫してこの点には言及されていないようです。法律家は非現実的な仮定を行うことで論理一貫性を整えるという作業が苦手なので、社会全体で見れば需要の原資となる雇用コストが大幅に減少すれば、需要、とりわけ内需はてきめんに減少すると考えてしまいます。つまり、解雇規制や最低賃金等の法制度は、一段階論理では、単に労働者を保護しその分資本家の利益を損なっているように見えますが、社会全体で雇用条件の引き下げ競争を始めた場合に内需が崩壊するという「合成の誤謬」を回避する機能を有しているという意味で、市場の持続的発展に寄与しているということができるように思われてなりません。

 また、池田先生は、長期的には雇用コストが下がると労働需要は増えるので、自然失業率は間違いなく下がるとしてサマーズさんの発言を引用(した池田先生の過去のエントリーにリンク)しているのですが、引用されている部分To fully understand unemployment, we must consider the causes of recorded long-term unemployment. Empirical evidence shows that two causes are welfare payments and unemployment insurance. [...] Another cause of long-term unemployment is unionization.についていえば、「原因を二つあげるとすれば福祉給付と失業保険だ」といっているのであり、「労働者保護」とりわけ解雇規制が強いことは自然失業率を高める要因とはしていないように読めます。少なくとも、サマーズさんは、「失業率が解雇規制の増加関数であること」が「実証的にも定型的事実である」とは仰っていないようです(引用元の文章以外で仰っていたらわかりませんが)。

 また、池田先生は

雇用を流動化するもっと重要な理由は、それによって労働生産性を高めることだ。流通業や建設業には大量の潜在失業者がいるが、医療や介護では人手が足りない。前者から後者に労働力を移転するには、解雇規制を緩和するとともに職業訓練を強化し、人々が新たなキャリアへの挑戦を容易にする必要がある。それによって福祉サービスが成長すれば、内需拡大によってGDPが高まる。厚労省の進めている雇用固定化政策はきわめて反生産的であるばかりでなく、労働者を会社に閉じ込めて不幸にする。
と仰っているわけですが、流通や建設業に従事する人々が医師になれるようなプログラムが現実に用意されていない状況で解雇規制を緩和したところで、そのような労働力の移転が行われないことは明らかです。むしろ、流通や建設業に従事する人々が(労働条件が飛躍的によい)医師になれるプログラムが用意されるのであれば、解雇規制を緩和しなくとも、自主的に当該プログラムを受けて、流通業や建設業から医療の分野に活躍の場を移す人が出てくる可能性が高いと言えるでしょう。そのためには、開業医等の富裕層の子供でなくても医学部に入学し卒業まで漕ぎ着けられるように公的資金を医学教育に投入することが求められます。すなわち、池田先生のご提言は、順序が逆だというべきです。

 小倉さんは政府のすべての政策は資本家が労働者から搾取するための陰謀だと思っているようだとのことですが、どのようにしたら私がそのように思っていると思えるのか不思議でなりません。

 なお、税の累進性が上がるとインセンティブが低下するというのは、著作権の保護期間が延長されないと創作のインセンティブが下がるのと同じくらい、現実味がないように思います。富裕層と言われる人たちは、もはや生きている間に使い尽くせないほどの富を集めても、なお、さらに富を自分のもとに集めたがる性質を持っているものです。

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