ラーメン屋を開業するにしても労働法の知識は必要
労働基準法第18条の2(現:労働契約法第16条)が制定されるまでは、民法上の「雇用」に関する解約申入れ自由の原則(627条)を制限する規定を労働基準法は置いていなかったので、条文を文理解釈する限りにおいては、解雇は自由でした。しかし、それはあまりに正義に反するので、裁判所は、解雇権濫用の法理を編み出してこれを発展させ、昭和50年の日本食塩製造事件最高裁判決でこれが判例となりました。
解雇権の行使が客観的に合理的と認められる場合として裁判例において概ね認められているのは、次の4つの場合です。
- 労働者の労務提供の不能や労働能力または適格性の欠如喪失
- 労働者の規律違反の行為
- 経営上の必要性に基づく理由
- ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求
この3の理由の一つに含まれるのが「経営不振による人員整理のための解雇」、いわゆる「整理解雇」です。
整理解雇が合理的か否かを判断するにあたって、裁判所は、次の4つの事項に着目されてきたといわれています。これが、一般に「整理解雇の4要件」といわれているものです(菅野・前掲429〜430頁)。
- 人員削減の必要性
- 人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性
- 被解雇者選定の妥当性
- 手続の妥当性
そして、多くの裁判例では、上記の「人員削減の必要性」について、「当該人員削減措置を実施しなければ当該企業が『倒産必至』の状況にあること」までは必要ではなく、「高度の経営上の困難から当該措置が要請されるという程度で足りる」としており、「結論として大部分の事件ではその要件の具備を認めている」とされています(菅野・前掲430頁)。
さらに、近時の裁判例は、上記4つの要件を全て具備しなければ解雇が認められないというのではなく、上記4つの要素に関する諸事情を総合考慮して、当該解雇の合理性を判断しているとされています(菅野・前掲430〜432頁)。
なお、池田さんはそのブログのコメント欄で、
嘘つき弁護士は、解雇規制を撤廃したら「不当解雇が野放しになる」などといっているが、これは「解雇権濫用」と「整理解雇」を混同するものです。私のケースは、国際大学の教授会で発令された辞令を公文が「存在しない」といって裁判所に否定されたので、純然たる契約上の不備です。
OECDやNIRAの報告が問題にしているのは、そういう「不当解雇」ではなく、企業の経営が苦しくなったとき解雇する条件が非常にきびしい「整理解雇」です。契約上の問題がなくても企業がつぶれるまで解雇できないという判例が、企業の雇用コストを高めて過少雇用をもたらしているのです。これを混同して「セクハラを追及したら解雇されるようになる」などと主張するのが弁護士なんだから救いがたい。
と述べています。
まず、前段に関していえば、整理解雇の制限も解雇権濫用規制の一環という位置づけがなされていますので、 「『解雇権濫用』と『整理解雇』を混同するもの」という論理自体がおかしいと言えます。「整理解雇」の自由に行えるようにするために、現労働契約法第16条の規定を改定して、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合であっても、その権利を濫用したものとして無効としてはならない」という風にしてしまえば、「セクハラを追及したから解雇された」という例でも、これを無効とすることはできなくなります。
また、「契約上の問題がなくても」というのが何をいいたいのかは分かりませんが、整理解雇に関する判例が「企業がつぶれるまで解雇できない」というものであるとの点は事実に反します。
雇用について何か語りたかったら、現行の法規制が運用面を含めてどうなっているのか、労働法に関する定評のある書籍をまず読めばいいのに、という気がしてなりません。
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「la_causette」の「ラーメン屋を開業するにしても労働法の知識は必要」
多くの裁判例では、上記の「人員削減の必要性」について、「当該人員削減措置を実施しなければ当該企業が『倒産必至』の状況にあること」までは必要ではなく、「高度の経営上の困難から当該措置が要請されるという程度で足りる」としており、「結論として大部分の事件ではその要件の具備を認めている」とされています(菅野・前掲430頁)。
現行法 (…と、その運用) でも企業の立場に配慮している、と指摘したうえで、
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