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04/05/2009

柳川範之座長による「幻想としての終身雇用制」

 総合研究開発機構(NIRA)の「緊急提言 終身雇用という幻想を捨てよ —産業構造変化に合った雇用システムに転換をー」の柳川範之座長による「幻想としての終身雇用制」を読んで,「珍しく,ネタもと自体がやばい」と思ってしまいました。

 図表1をみて,

たとえば、図表1 は平成18 年における従業員の勤続年数を調べたものである。もしも、終身雇用なのであれば、大学卒業後に就職したとしても、50〜54 歳でおよそ30年、54〜59 歳でおよそ35 年の勤続年数になるはずである。しかし表をみると、これらに近い数字なのは、大企業の製造業に勤める男性従業員(50〜54 歳で30.2 年、54〜59 歳で33.7 年)のみである。たとえ製造業に従事する男性従業員でも、小企業になると勤続年数は17 年に過ぎない(50〜54 歳)。中企業のサービス業に勤める女性従業員にいたっては、勤続年数は10 年以下(50~54 歳)である。つまり、そもそも終身雇用と呼べるような長い勤続年数を経験しているのは、せいぜい大企業の製造業に勤めている男性従業員だけである。

と結論づけてしまっています。しかし,図表1の数値はあくまで平均値に過ぎません。しかもそれは,50〜54歳,あるいは54〜59 歳で特定の企業に勤めている人の勤続年数,すなわち彼らは今所属する企業にいつころ雇われたのかということを示しているに過ぎません。製造業・小企業男子50〜54 歳の平均勤続年数が17年だからといって,これらの企業群においては通常35歳前後の人材が雇用されているということを示しているわけではありません。

 これらのグループにおいて終身雇用をベースとしていたとしても,男子50〜54 歳の勤続年数の平均値を引き下げる要因は多々あります。例えば,その会社自体が設立されたり,急激に規模を拡大するようになってから30年経っていない企業が含まれていれば,勤続年数の平均値を引き下げることになります。また,中途採用を広く受け入れている企業もまた,男子50〜54 歳の勤続年数の平均値を引き下げます。親会社や元請会社からの出向者ないし天下りを受け入れても,勤続年数の平均値を引き下げる可能性があります。したがって,上記図表からそもそも終身雇用と呼べるような長い勤続年数を経験しているのは、せいぜい大企業の製造業に勤めている男性従業員だけであるとの結論を導くことは困難です。

 実際図表3を見ると,「学卒後すぐに就職した企業に勤め続けている雇用者の割合」は男性で一貫して30%前後というラインを維持しているわけで,これをみれば,図表1から「そもそも終身雇用と呼べるような長い勤続年数を経験しているのは、せいぜい大企業の製造業に勤めている男性従業員だけである」との結論を導いたのは軽率に過ぎたのではないかと引き返してみて然るべきだったように思います。

 なお,一部の「神頼み」系評論家の中にはこれらのデータを自説を補強するものとして喜々として図表を引用されている方もおられるようですが,これらのデータって,現行程度の解雇規制の下でも,中企業を中心に,中途採用市場がそれなりに存在するということを意味しているので,,むしろ彼らの従前の主張にマイナスになるものなのではないかという気がします。

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