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25/05/2009

『盟神探湯』をやめたことによっても幾分かの真犯人を取り逃しているかもしれない

 捜査機関による被疑者の取調べ状況の全面録画や,捜査機関による被疑者の取調べへの弁護人の立ち会いを認めよという見解に対して,「そのようなことをしたら,真犯人を取り逃がしてしまうが,それでもよいのか」という反論がなされることがあります。

 確かに,捜査手法のいかなる改善であっても,真犯人でない被疑者のみについてその処罰可能性を軽減するものでない限り,それにより「真犯人を取り逃がす」可能性を内包します。より端的にいえば,捜査機関の「ヤマ勘」があたっている限り,その「ヤマ勘」を排除する全てのシステムは「真犯人を取り逃がしてしまう」可能性を包含するものとなります。例えば,現行憲法下では,自白のみを唯一の証拠として被告人を有罪とすること,並びに,自白をとるために被疑者を拷問することは禁止されています。従って,拷問の結果得られた自白調書のみに基づいて被告人を有罪とすることは許されていないのですが,これとて,「証拠はないが,こいつが真犯人に違いない」という捜査機関の「ヤマ勘」があたっていた場合には,「真犯人を取り逃がしてしまう」ことに繋がります。捜査機関の「ヤマ勘」があっている限りにおいて,「『盟神探湯』を行い被告人がやけどを負ったら有罪」というシステムだって,真犯人を処罰するシステムたり得ます。

 もっとも,それは「All or Nothing」の議論をすればそうだということであって,「真犯人であろうとなかろうと,捜査機関の筋書き通りに『自白』をしてしまう」システムが採用されている限りにおいては「自白調書」があることにより有罪に持ち込めるが,そのようなシステムが排除されてしまえば「自白調書」を作成することができず,このために有罪に持ち込めなくなってしまう被疑者が,実は真犯人である蓋然性がそれほど高いのかというと,それはそうでもないのではないかという気がします。そのようなシステムが排除されても,客観証拠のみで被告人を有罪に導ける場合も少なくありませんし,また,自分が真犯人であることを吐露して精神的に早く楽になりたいと思う被疑者も少なくないからです。その結果,そのようなシステムが採用されていれば有罪に持ち込めたはずだがそのようなシステムを排除してしまったがために有罪に持ち込めなかった人の中における真犯人の割合は,捜査機関の「ヤマ勘」の的中率よりも相当低くなることが予想されます。

 なお,取り調べの可視化を行うのであれば,司法取引を認めよ,とか,刑事免責を付与して獲得された供述を事実認定の証拠とすることを許容せよなどという意見が提出されることがあります。しかし,これらは,情報の非対称性・不完全性により,被疑者が真犯人であるか否かにかかわらず「罪を認める」動機を与えようというものに過ぎませんから,取り調べの可視化に対する交換条件としては不適格ではないかと思われます。もちろん,捜査機関側としては,常に「冤罪を生み出す余地」を残しておいた方が望ましいということかもしれませんが。

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