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18/06/2009

被疑者の見ている目の前でDVDの内容を気付かれずに書き換えるのは困難

 矢部善朗創価大学法科大学院教授が野党提出にかかる刑事訴訟法改正案のごく一部について意見を述べられています。

第百九十八条の二

1 前条第一項の取調べに際しては、被疑者の供述及び取調べの状況のすべてについて、その映像及び音声を記録媒体に記録しなければならない。この場合においては、同時に、同一の方法により二以上の記録媒体に記録するものとする。

 捜査機関による編集を防ぐために複数の媒体に記録することを求めているようです。

2 前項の規定により記録をした記録媒体の一については、取調べを終了したときは、速やかに、被疑者の面前において封印をしなければならない。この場合においては、当該記録媒体が同項の規定により記録をしたものであることについて、被疑者に確認を求めることができる。

 「被疑者に確認を求めることができる。」とありますが、どのようにして確認を求めるのかがよくわかりません。
 まさか、レコーダーからDVDメディアを取り出して、「これに記録したからね。」と言えば足りるとは思えません。
 取調べの一部始終が記録されているかどうかを確認するためには、厳密に言えば、その場で全てを再生して被疑者に確認させるということが必要だと思いますが(供述調書の場合は、いかに長文でも全て読んで聞かせた上で署名押印(または指印)を求めます。)、そんなことをすると一日8時間取り調べたら8時間再生してそれを被疑者に見せるということになりますから、それは非現実的な話だろうと思います。
 詳細は刑事訴訟規則で定めると言うのかも知れませんが、意味のある確認をどうしたらできるのかよくわかりません。

 供述調書の場合,取調べにあたって被疑者が述べたことのごく一部を,ときには取調べ担当者の問題意識にあわせて適宜内容を修正した上で,取調べ担当官の紡ぎ出した言葉によって表されるものですから,被疑者としては,読んで聞かせてもらえなければ,そこにどういう言葉が記載されているのか見当がつきません。従って,「いかに長文でも全て読んで聞かせ」るのは当然です。しかし,取調べ状況を全面的に録音録画したものの場合,すくなくとも取調べ開始時にメディアが新規に挿入され,取り調べ終了後に排出されて,そのまま封印されるのであれば,通常は,その日取調担当官が語ったことと被疑者が語ったことのみがそこに記録されていることを期待できます(上記のようにした場合に,即座に内容の一部を捜査側に都合がよいように書き換える手法は,現時点ではないように思われます。)。従って,録音・録画にあたってトラブルがなかったことを確認できれば足りるのであって,被疑者としては全部を再生して確認する必要はないように思われます。従って,上記批判は,取調べ状況の全面録音録画義務づけに反対するための,ためにする批判ではないかと思われます。

3 前項の確認がされたときは、同項の封印に被疑者の署名押印を求めることができる。ただし、被疑者がこれを拒絶した場合は、この限りでない。

 被疑者がこれを拒絶したらどうなるんでしょう?
 封印は、記録内容の改変を防止するための措置だと思いますが、被疑者の署名押印がない場合に、後で、捜査官が勝手に封印を破って内容を改変したという主張が出たらどうするのでしょう?
 あまり徹底していない印象があります。

 現行法でも,被疑者は,供述調書への署名押印を拒否することができるのですから,それほど大きな話ではないように思われます。

 ここでは、封印に対する被疑者の署名押印の拒否を問題にしていますが、それを考えるならば、被疑者が録画自体を拒否した場合についても考えておくべきだと思います。

 被疑者が録画自体を拒否した場合には取調べ状況が録画されていなくとも自白調書の証拠能力を肯定できるということにすると,捜査機関としては,まず被疑者に取調べ状況の録画を拒否させた上で,あとは今まで通りやりたい放題の取調べを行うということが予想されますので,被疑者による録画の拒否は認めないと言うことでよいのではないかと思い割れます。

 あと、録画したDVDなどの取調べの方法についても、取調べの録画という特殊性を考慮した検討が必要だと思います。


 録画したDVDの取調べ方法などは,刑事訴訟規則等で定めるべきものではないかと思いますが,取調べ状況を全面的に録画しているにもかかわらず任意性が疑われるような取調べがなされた場合には,争点となっている部分について,法廷で再生して取り調べるのではないかと思われます。


 細かく見れば、ほかにも検討の余地はあるはずです。

 つまり、無条件に賛成することはできません。

 でも、ほとんどの法律家は無条件には賛成しないと思います。

 可視化反対の意見もあれば、この法案では可視化実現のために不十分だという意見まであるでしょうし、その理由や根拠もそれぞれ一つだけとは限りません。


 実際には,法曹出身者が相当数存する民主党と社民党の主導で提案され,野党の賛成多数で参議院を通過しています(まさに,参議院議員の過半数が「無条件で」賛成したのです。)。また,この案について,上記のような観点から批判したものは日弁連を含む実務法曹側から語られておらず,与党による反対も上記のような理由に基づくものではありません。

4 被疑者又はその弁護人は、第一項の規定により記録をした記録媒体(第二項の規定により封印をした記録媒体以外のものに限る。)を閲覧し、若しくは聴取し、又はその複製を作成することができる。
被告人又はその弁護人についても、同様とする。

 末尾の「被告人又はその弁護人についても、同様とする。」という文章と対比して読むと、「被疑者又はその弁護人」は、被疑者又はその弁護人である時点、つまり起訴前の捜査段階において、取調べ状況を記録した記録媒体を見てその複製まで作成できるように読めます。
 そう言う意味の法案であるならば、これは相当議論になりそうです。
 弁護士としては、弁護人が見る分には反対する理由はありませんが、捜査側の情報管理的には最もシビアなタイミングの話ですから、情報管理がどこまでできるかがポイントのように思います。
 今でも、被疑者を通じて取調べ状況はある程度把握してますから、それを数歩前進させたものと言えますが、否認事件(場合によっては自白事件でも)の弁護人にとっては、「見ることができる」は「見る必要がある」と事実上同じになりますから、弁護士(ないし弁護士会)としてもそれなりの覚悟がいる改正案です。

とのことですが,被疑者が取調べにあたって何を語ったのか,その際取調担当者による暴行,脅迫,偽計等はなかった等の情報を捜査側が管理する,別の言い方をすれば,どの情報を開示し,どの情報を隠匿するかを捜査側が恣意的に決定することを許す合理的な理由はありませんので,今まで通り捜査機関には冤罪を生み出す余地を残しておいてあげようという人々以外の間では,それほど議論になる点ではないように思います。

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Commentaires

>どんなトラブルが予想されるのでしょうか?

との点に関していえば、録音・録画機が正常に動作しなかったというトラブルが予想されます。そして、そのトラブルがなかったかを確認するためには、最初と、最後と、真ん中の一部とを再生して視聴してみるというのが、通常考えられるかと思います。

>警察が、意図的に、機械の動作不良を装って取調べ一部を録画しない、ということは想定されないのでしょうか?

参議院で可決された改正案198条の2第1項によれば、「同時に、同一の方法により二以上の記録媒体に記録するものとする」とあり、現代のこの種の録音録画機の堅牢性を前提とした場合に、そのような主張はしづらいのではないかとは思います。

ところで、矢部先生としては「警察が、意図的に、機械の動作不良を装って取調べ一部を録画しない、ということ」を想定した末、野党共同提案にかかる改正案をどのように修正すべきとお考えですか?

それとも、結局「警察が、意図的に、機械の動作不良を装って取調べ一部を録画しない、ということ」が想定される以上、取り調べ担当者が録音録画を望まない「自白に至る過程」の録音録画を義務づけることは断念せよと仰りたいのでしょうか。

> 法案提出政党のメンバーと法律家全体を同視するのですか?
> たしか、党議拘束という言葉があったような。

「民主党及び社民党に所属する放送出身議員はこの改正案に党内で反対していたが、結局多数に押し切られ、党議拘束に従って賛成票を投じた」というお話しは寡聞にして聞いたことがありません。

> 「今まで通り捜査機関には冤罪を生み出す余地を残しておいてあげようという人々」というのは誰のことですか?
 
 特定の個人というわけではありませんが、例えば、当初否認していた被疑者が自白に至る過程を含む取り調べの全面録音録画を義務づけ、暴行脅迫偽計等により自白を引き出す余地を奪うのであれば、バランスとして、「身柄」を人質として無実の罪で刑に服することを被疑者に求める司法取引を導入せよと主張される人々は、上記のように表現されてしかるべきでしょう。

>小倉先生としては、必死に言い逃れをして罪を免れようとする真犯人である被疑者が存在するという事実には目をつむるわけですね。

 客観的な証拠が乏しく、かつ、拷問脅迫偽計等を行わなければ捜査官の見込み通りの自白をしない人の中には、真犯人も含まれる可能性があることは否定しませんが(盟神探湯でやけどした人の中にも真犯人が含まれる可能性はありますし。)、そのような「真犯人」を処罰するために、捜査官が密室で暴行脅迫偽計等の手段を行使することを認めた場合には、真犯人でない人が、耐えきれずに「自白」してしまい、処罰される危険をはらみます。

 そうなってくると、最終的には「疑わしきは被告人の利益に」ということになっていくのではないかと思います。

 矢部先生は、「必死に言い逃れをして罪を免れようとする真犯人である被疑者が存在する」以上、これを自白させて処罰するためには、真犯人でない被疑者を自白させて処罰することになっても、仕方ないとお考えですか?

>従って,録音・録画にあたってトラブルがなかったことを確認できれば足りるのであって,被疑者としては全部を再生して確認する必要はないように思われます。

 どんなトラブルが予想されるのでしょうか?
 そしてそのトラブルがなかったことをどのようにして確認するのでしょうか?
 例えば、何らかの理由で録画されていなかった場合は考えられないのでしょうか?
 小倉先生は、これまで警察や検察に対して根深い不信を何度も表明されていますが、小倉先生のこれまでのスタンスと今回のエントリのスタンスがかけ離れているように見えるのは私だけでしょうか?
 警察が、意図的に、機械の動作不良を装って取調べ一部を録画しない、ということは想定されないのでしょうか?
 または媒体をすり替えて、全部の録画が失敗した、という言い訳をすることは想定されないのでしょうか?
 想定しないのであれば、私も小倉先生の考え方でいいと思いますけど。

>従って,上記批判は,取調べ状況の全面録音録画義務づけに反対するための,ためにする批判ではないかと思われます。

 私は、疑問を呈しているのであって批判しているのではありません。
 それを「ためにする批判」というのはそれこそ「ためにする批判」ではないでしょうか?
 あなたのスタンスが透けて見えます。

> 現行法でも,被疑者は,供述調書への署名押印を拒否することができるのですから,それほど大きな話ではないように思われます。

 供述証拠と被供述証拠を同列に論じるのは論理的ではないと思いますが、「大きな話ではない」というのであればそれはそれでいいと思います。
 しかし、警察不信の立場からは「大きな話ではない」と言っていいのかどうか疑問があります。
 そう思いませんか? 警察不信の小倉先生。 

>被疑者による録画の拒否は認めないと言うことでよいのではないかと思い割れます。

 それならそれでもいいと思いますが、諸刃の剣になることは理解しておいたほうがいいと思います。

>実際には,法曹出身者が相当数存する民主党と社民党の主導で提案され,野党の賛成多数で参議院を通過しています(まさに,参議院議員の過半数が「無条件で」賛成したのです。)

 法案提出政党のメンバーと法律家全体を同視するのですか?
 たしか、党議拘束という言葉があったような。

>今まで通り捜査機関には冤罪を生み出す余地を残しておいてあげようという人々以外の間では,それほど議論になる点ではないように思います。

 「今まで通り捜査機関には冤罪を生み出す余地を残しておいてあげようという人々」というのは誰のことですか?
 このような物言いがあなたの主張の客観性と論理性を著しくスポイルしていることにそろそろ気づいてもいいと思いますよ。

 小倉先生としては、必死に言い逃れをして罪を免れようとする真犯人である被疑者が存在するという事実には目をつむるわけですね。

 で、小倉先生としては、この改正案に無条件に賛成するんですか?
 私の見解に対する意見は述べられているようですが、改正案に無条件に賛成するかどうかについては必ずしも明確ではありませんね。
 回答を拒否するのですか?

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