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08/10/2009

風が吹けば桶屋が儲かるというレベルの話

 Mutterawayさんが,次のように述べています。

「労働市場の流動性が高まることで、エリートによる起業が増える。」は、1段階脳の小倉氏でも、ステップに分ければ容易に理解可能と思いますので、下記をご覧ください。



ステップ1:


大企業の収益が悪化します。



ステップ2:



大企業は収益を悪化させている不採算部門で大量の整理解雇を行い、沢山のエリート労働者が野に放たれます。



ステップ3:



大企業から「生涯安定」が失われれば、起業して自分で稼ぐ、あるいはベンチャー企業へ参加して上場を果たす事は、費用対効果を考えると合理的な選択枝の範囲内といえるでしょう。こちらを見ると、米国の理系・工学系の博士課程には、そういう野心家がゴロゴロいるようです。社会環境が変われば、日本でもこのようにならない理由はないでしょう。

 このステップが成立するためには次の条件が満たされる必要があるように思われます。


  1. 大企業は,解雇規制が緩和されたら,収益が悪化した際に,今まで以上に「エリート労働者」を整理解雇する。

  2. 雇用が流動化されたとしても,収益が悪化した大企業により解雇された「エリート労働者」は別の大企業や中堅企業から雇用されることはない。

  3. 収益が悪化した大企業から解雇され別の大企業からも雇用されない「エリート労働者」は,起業に必要な資金の融資を比較的低利で受けることはできる。

  4. 収益が悪化した大企業から突然解雇されて不況下にやむなく起業をすることになっても,「エリート労働者」であれば,不況をものともせず急成長させるようなアイディアを即時に生み出すことができる。

  5. 「エリート労働者」はそのようなアイディアを,大企業在籍時には思いつかないか,思いついたとしても会社に提案することはないか,会社に提案したとしても会社からゴーサインを得られない。


 解雇規制が緩和された場合にもたらされる一般的な効果として語るには,蓋然性の高くない論理を積み重ねすぎているような気がします。

 法学系の人間って基本的に,未確定の条件が全て自分の都合の良い方向に動くはずだという発想に基づいて何かを決断するということに慣れていないので,新自由主義者の脳天気ぶりにはついて行かれなかったりします。

 さらにいうと,十分に準備された起業ですらそのほとんどは失敗するのですから,突然の解雇で追い詰められて行う起業はなおさら失敗する蓋然性が高いと思うのですが,解雇規制が緩和されることで起業をせざるを得ないところに追い込まれたが案の定失敗した元「エリート労働者」はどうなっていくのでしょう。彼らが大量に自殺し,餓死し,喰うがための犯罪に手を染めて刑務所暮らしをするようになれば,新自由主義者たちは高笑いする算段ということなのでしょうか。

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Commentaires

今まで社会的な大問題になった、カルト事件やマルチ商法などに共通するキーワードは「簡単」と「原理」なんですよね。

新自由主義の主張の大半は「ほれ、こんなに簡単に説明できる」いうことで、実は解析不可能なほど複雑な現象の一部分だけを取り出して見せる、奇術(マジック)のテクニックなのだ、というところを見逃してはいけないですね。

問題の記事の、タイトルがそもそもヤバイですって。

もう、大道芸の世界でしょう。

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