追い出し屋を根絶するために
池田信夫さんが次のようなことを述べています。
バブル期の記憶がない人も多いので、当時の事件を取材した記録を書いておこう。もとは「地上げ」という言葉はなく、権利関係の複雑な土地の所有権だけを買うことを底地買いと呼び、それを請け負って店子を追い出す業者を地上げ屋と呼んだ。本源的な買い手は大手不動産業者やゼネコンだが、彼らが地主との交渉に出ると地価が上がるので、最上興産のような暴力団のからんだ地上げ屋が、底地を買って借家人を追い立てた。地主が立ち退きを求めて訴訟を起こしても勝てないので、生ゴミを家の前に置くとか街宣車で騒音を出し続けるなどのいやがらせで追い出すしかなかったからだ。
だから追い出し屋を根絶するのは簡単である。家賃を滞納している借り手に対して家主が訴訟を起こしたら、裁判所が借り手に退去を命じればよいのだ。これは事後の正義にもとるようにみえるが、家主が賃貸住宅を建設するインセンティブを高め、結果的には優良な賃貸住宅が大量に供給され、家賃も下がるだろう。これは60年前にフリードマンとスティグラーが提唱した「家賃規制の理論」と同じだ。
もはやアゴラのコメント欄にはこの程度の誤りを指摘する人もいないようです(承認されていないだけかもしれませんが。)。
バブル期に「地上げ屋」による追い出しの対象になっていたのは,主に「家賃を滞納している借り手」ではありませんでした。その多くは家賃をきちんと納めている借地・借家人であり,また小規模地主もまた追い立ての対象となっていました。ですから,バブル期の追い出し屋を根絶するには,「家賃を滞納している借り手に対して家主が訴訟を起こしたら、裁判所が借り手に退去を命」ずる仕組みなど意味がありません。不動産デベロッパーが不動産の購入を申し込んだら小規模土地所有者はこれを承諾してどこかに出て行かなければならない仕組みが必要です。
なお,家賃を滞納している借り手に対しては,その滞納が貸主との信頼関係を破壊する程度に至った場合は,貸主は賃貸借契約を解除した上で賃貸物件の明渡しを請求することができます(これは,借主の保護という側面もないわけではありませんが,継続的契約関係のもとでは一度や二度の債務不履行では契約関係を全面的に解消させるべきではないという側面もあります。)。これに関していえば,明渡しを命ずる判決が確定すれば,実際に強制執行等を行うことができますし,実際に行われています。金銭債権と異なり,執行の対象が確実に存在するので,執行が不能となることはほぼありません。
ただし,裁判制度は,相手方にも反論の機会を保障する必要があるため,どうしてもその解決には相当程度の時間がかかってしまいます。現代型の「追い出し屋」が入り込む余地はそこにこそあります。したがって,追い出し屋を根絶するためには,近代的な裁判制度を否定して,一定額以上のお金を積めば,借主の言い分を聞くことなく,国家権力が,借家人を借家から追い出し,あるいは,借地上の建物を打ち壊して借地人を借地から追い出す仕組みが必要となります。
そこでは,賃貸借契約を結んでも,明日,家財一切がゴミ捨て場に全て投じられ,そのままホームレスにならざるを得なくなるかもしれませんので,いくら「優良な賃貸住宅が大量に供給され」ても借り手がいなくなる危険が高まります。そのような状態で「優良な賃貸住宅」の建設費に見合うだけの賃料収入を貸し手が得られるのだろうかということが問題となり得ます。
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