後進育成の役割を既存の法律事務所にのみ押しつけるのなら、その上限人数について財界は口を挟まないで!
「企業法務戦士の雑感」というブログにおいて、次のような発言がなされています。
なお、蛇足ではあるが、「修習直後に企業に入るのが有意義である」からといって、「既存の法律事務所(特に首都圏の法律事務所)が本来果たすべき後進育成の役割を放棄して、企業に対して安易に雇用の“受け皿”としての役割を求めること」が正当化されることにはならない*10。
この点については、先日のエントリーで述べたとおりだから、今ここであらためて繰り返すことはしないが、「法曹人口が過剰で既存の法律事務所では吸収しきれない」という認識をお持ちの業界の方が、もしこのブログを読まれているのであれば、ご自身の事務所の仕事量と人員のバランスや、運営経費(ご自身の報酬も含め)に過剰なところがないかを良く見直された上で、本当に「吸収しきれない」のかを、まず足元からご検討いただきたいものだと思う。
そこまで仰るのであれば、司法試験の合格者数を今後どうするかについて、企業人は今後一切口を挟まないでいただきたいところです。
現在の司法試験合格者数自体、企業が企業内弁護士を多数雇用することを前提としています。2009年2月9日段階で日本の弁護士の人数は26,976名、その後の新規登録者を含めても、3万人弱といったところでしょう。しかも、うち約1万人は登録5年以下であって、未だOJTを施す立場ではありません。そのような人数構成の団体に「年2千人、3千人の新人を受け入れてOJTを施す」なんてことができようはずがありません(まだ「売り手市場」といわれていた2009年新卒採用ですら、年間2000人以上の採用を計画していたのは、三井住友銀行(従業員数約2万2000人、みずほFG(従業員数約5万人)、トヨタ自動車(従業員数約7万3000人)のみです。2010年新卒採用については2000人以上の採用を予定している企業はありません。1位のみずほFGで1750人、2位の三菱重工(従業員約3万4000人)で1500人です。「日弁連」より大きな企業は数有れど、安定して2000人以上の新人を採用している企業など、日本にはありません。)。
もちろん、「ご自身の事務所の仕事量と人員のバランスや、運営経費(ご自身の報酬も含め)に過剰なところがないかを良く見直された上で」と仰っていることからすると、「法律事務所なんて規模的には中小零細企業に過ぎないのだから、中小零細企業の人間としての『分』をわきまえた所得レベルを甘受すれば、もっともっと新人を受け入れられるはずだ」ということを仰りたいのだと思います。ただ、大企業系の方々は、企業のみが経済合理性に基づいて行動する存在であることを前提とし、それ以外の人々は企業のために自己犠牲を図って然るべきだと考えがちなのですが、自分の収入を減らし、例えば自分の子どもが高校・大学に進学することを断念させてまで、必要もない新人を雇いOJTを施してやろうと既存の弁護士どもは考えるべきといわれても、そうそうなんでも大企業の思い通りには行かないのではないかと思います。
企業が新人弁護士を雇う気がないのであれば、既存の法曹三者が無理なく吸収できるのはせいぜい年間800〜1000人前後です(この数年、弁護士のみが、無理して吸収していました。)。すると、新司法試験合格者数を1000人前後に戻すのが合理的だということになります(「路頭に迷う弁護士が大量に現れるのを見て溜飲を下げたい」というのであれば、既存の法曹三者の吸収能力を無視して、司法試験合格者数を3千人だ、1万人だと闇雲に増やすのが合理的だということになろうかと思いますが、その場合、「もはや優秀な人材は法曹にはならない」社会となることを覚悟していただく必要があります。)。1000人前後であれば、法科大学院制度をやめて法科大学院につぎ込まれていた補助金を司法研修所に振り向けることによって、2年間・給費制の司法修習制度を復活させることが可能です。
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