内部留保は家計に回すべきか、資本家に回すべきなのか。
青木理音さんが次のように述べています。
では日本企業が不必要に資金を保有しているとしてこれをどう使うのが望ましいだろうか。もし企業の雇用・賃上げに使えば、不景気に関わらず利益を出している好調な企業にいる社員やそこで運良く採用された人は喜ぶだろう。しかし、それが社会全体からみて効率的な活用方法だとは思えない。労働者を助けるというなら、失業者や不調な企業の従業員が先だろう。
必要なことは逆に内部留保を株主配当で資本市場に戻すことだ。有効利用のできていない資金を生産性が高い、成長の見込みのある企業へと移すことで経済全体のパイを大きくすることができる。それにより新しい産業で雇用が生まれ、労働者にとってもプラスだ。資金の有効な使い道が分からない企業に人材を集めてもしょうがない。
しかし、内部留保を株主配当で資本市場に戻すと、その資金が生産性の高い、成長の見込みのある企業へと移るというのは、単なる青木さんの思いこみに過ぎないように思われます。
どの産業が、あるいはどの企業が成長の見込みがあるのかなどということは、政府もしばしば判断を間違えるけれども、資本家だってしばしば判断を間違えます。資本家って、別に将来を確実に見通せるスーパーマンではありません。
従って、資本家としては、あたる可能性はそれほど高くないけれどもあたったときには大儲けができるベンチャー投資を行うか、外れる可能性は低いけれども外れなかったとしてもさほど利益率が高くはない安全投資を行うかの選択を迫られるわけです。で、株主配当を期待して行う投資っていうのは、大抵の場合後者なのです(ベンチャー投資の場合、投資家は高値で売り抜けることを期待するので、必ずしも株主配当は喜ばれない。)。すると、内部留保を株主配当でそのような資本家に戻しても、結局、同じような安心投資に回される可能性が高いと言えます。
そして、内部留保が賃金として労働者に回ることがないということになると、内需産業はパイが大きくなりませんから、内需型の企業、特に新興企業に投資することには相当の躊躇を覚えそうです。安心投資の矛先は、日米等の国債等の債券市場に向かいやすくなりそうに思えます。あるいは、「滅多なことでは潰れなさそうな」伝統企業の株式を資本市場で購入して安定的な配当収入を狙うかもしれません。
では、それって内部留保を賃金という形で従業員に移転するということと比べて資金が有効活用されているといいうるのだろうかといえば大いに疑問です。賃金という形で従業員に移転すれば、家計消費という形で国内の内需産業に資金が回っていきます。それは、新しい雇用が生み出されるきっかけとも成り得ます。そのことと比べても、内部留保を株主配当という形で株主に移転させると資金の効率的な活用がなされるはずだということがどうしてそんなに自信を持って言えるのか、私には不思議です。
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Voici les sites qui parlent de: 内部留保は家計に回すべきか、資本家に回すべきなのか。:
» 内部留保は賃金でなく国内投資へ回せ [Mutteraway 時事問題 を語るブログ]
経済101のRion氏が、すくらむのトヨタもキヤノンも内部留保を使うが雇用には使えない? -10年で2倍増の内部留保こそ“埋蔵金”を批判して、余剰資金は成長産業へと提案されています。この記事の中で、「日本企業が不必要に資金を保有しているとしてこれをどう使うのが望ましいだろうか。もし企業の雇用・賃上げに使えば、不景気に関わらず利益を出している好調な企業にいる社員やそこで運良く採用された人は喜ぶだろう。しかし、それが社会全体からみて効率的な活用方法だとは思えない。労働者を助けるというなら、失業者や不調な... [Lire la suite]
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