「供述の任意性が争いとならない事件」か否か取調べ前にわかるの?
毎日新聞社によれば、
千葉景子法相は18日の閣議後会見で、取り調べ可視化の対象事件を限定して法制化を進める方針を発表した。
とのことです。
検察の取り扱う事件は年間約200万件に上り、交通違反、事故など供述の任意性が争いとならない事件が対象に含まれるほか、コスト面の負担が大きすぎると指摘。「実務上の課題を踏まえると、全事件の可視化は現実的ではない」と結論づけた。
交通違反、事故などが「供述の任意性が争いにならない」という理由がよくわかりません。法務省では、遠藤国賠事件の元事件は無かったことになっているのでしょうか。あるいは、
18日発表した中間報告は、検察受理事件の約75%が道交法違反や自動車運転過失致死傷など交通事件で、起訴される事件は約6%にとどまると指摘。「供述の任意性が問題とならないものも含まれ、可視化で実現しようとするメリットに見合わない多大な負担やコストとなる」とした。としたとありますから、「道交法違反や自動車運転過失致死傷など交通事件」の全てが「供述の任意性が問題とならない」という趣旨ではないのかもしれません。ただ、供述の任意性が問題となるか否かは公判前整理期日にならないとわからないので、「供述の任意性が問題とならないものも含まれ」るということは、「取り調べ可視化の対象事件を限定して法制化を進め」てよい理由にはなっていないように思います。
年間約200万件程度の取調べを全面録画するのに必要なコストをどの程度のものだと見積もっているのかはこの記事からはわからないのですが、千葉法相は、「可視化で実現しようとするメリット」はそのコストに劣ると考えておられるようです。「可視化で実現しようとするメリット」って何だったでしょうか。拷問を含めた不当な取調べを受けない、記憶と異なる内容の自白調書に署名・捺印させられない、無実の罪で刑罰を課せられないということだったと思うのですが、あまねく国民がこのような手続き的な保障を得られるということは、年間約200万件程度の取調べを全面録画するのに必要なコストと比べたら、取るに足りないものだと千葉法相はお考えなのでしょうか。
さらに記事では、
また、暴力団など組織的犯罪では報復の恐れなどから容疑者が真実の供述をためらったり、容疑者に知的障害がある場合は容疑者が取調官に迎合する可能性もあるとして、全過程にこだわらない方法も検討するとした。
とも報じているのですが、「容疑者に知的障害がある場合は容疑者が取調官に迎合する可能性もある」ということは、むしろ取調べ過程の可視化がより必要とされる事情なのではないかと思ってしまいます。どういう応答がなされたのかが正確に再現できた方が、その自白が「容疑者が取調官に迎合」した結果なされたものなのかを判断しやすいように思ってしまいます。
「暴力団など組織的犯罪」での報復の恐れ云々というのはよく語られるのですが、供述した結果が「調書」として残ればやはり報復される恐れがあるわけですし、あまりに意味のある話でもないように思ったりします。まあ、被疑事実とは無関係の組織内の問題について話させる場合には調書化する必要もないのですが、そのような「本来の捜査手続外の事項」をやりやすくするために、「拷問を含めた不当な取調べを受けない、記憶と異なる内容の自白調書に署名・捺印させられない、無実の罪で刑罰を課せられない」という手続的保障を「暴力団など組織的犯罪」を犯したと疑われている人から奪ってしまうというのもいかがなものかという気がします。
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