超党派の貸金業法改正検討チームの提言
河野太郎氏の公式ブログによれば、「超党派の貸金業法改正検討チームの提言を発表した」とのことです。
利息制限法及び出資法の上限金利を見直し、より経済の実態にあった安定的なものにする
とのことなのですが、その具体的な数値が、
例えばTIBOR+25%。
借り手の年収の三分の一という総量規制を撤廃する。
との内容です。どこが「経済の実態にあった安定的なもの」なのか全く意味不明です。「TIBOR」とは「Tokyo Inter-Bank Offered Rate」の略で、東京の有力銀行が銀行間取引をする際に提示する金利のことをいいます。2011年1月11日以降は、12ヶ月もので、ずっと0.47です。そのくらい低成長の今の日本で、借りたお金を1年で25%以上も増やすことは容易ではありません(25%増やしただけでは、全部利息に取られるだけで、その借主の1年間の活動は徒労に終わります。)。
さらに、総量規制を撤廃することが同「経済の実態」に繋がるのか意味不明です。借り手の年収の半分にあたる金員を年率25%で借りてこれを3年で返還しようと思うと、月収の4分の1を元利金の支払いに充てる必要があります。これは簡単ではありません。続けて、
カウンセリング制度を強化するなど、返済困難者に対する真の救済制度を構築する。
とあるのですが、カウンセリングで返済困難者が救済できれば、多重債務者救済で誰もこんなに苦労しません。っていうか、カウンセリング制度でどう救済しようとしているのか、全く見えてきません。
面白いのはここからです。「超党派の貸金業法改正検討チーム」の正体が垣間見えてきます。
過払い訴訟の代理人を務めた弁護士や認定司法書士800人のうち約700人が申告漏れを国税庁に指摘された(2009年6月)を踏まえ、
国税庁に引き続きの調査を要請する。
とのことです。申告漏れは取り締まられて然るべきだと思いますが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」が提言することではありません。「過払い訴訟の代理人を務めた弁護士や認定司法書士」に対する恨みがそこには見え隠れします。
日弁連に適切な対策を要請し、その効果の検証、公表も求める。
改善なき場合は、監督できる仕組みを検討する。
と続きますが、個々の法律事務所において確定申告が適正になされるような適切な対策など日弁連が取り得るわけありませんし、それを「監督できる仕組み」なんて想定できません。日弁連が法律事務所の確定申告を代行せよとでもいいたいのでしょうか。
認定司法書士に関して、認定業務を厳格化すると共に、業務拡大を検討する。
とのことですが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」がこのような提言をするとそれは「司法書士さん、貸金業者をいじめるのはやめてね。やめてくれたら、他の仕事をできるようにしてあげるからね」といっているだけのように見えてきます。
さらに、
過払い利息の返還請求訴訟について、過払い金の返還は直接債務者に行うよう貸金業者に義務づける
という提言もなされています。これは、従前和解が成立した場合(判決確定後支払い方法について協議が整った場合を含む。)には、債務者が債権者側の弁護士の預り金口座にお金を送金するという運用が広く行われているところ、過払い利息の返還請求訴訟についてはこれを禁止するということを意味しています。このような運用は、債権者の銀行口座を債務者に知られることを回避するとともに、債権者側の弁護士が成功報酬の回収を確実にするという意味があって行われているわけですが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」は、前者の要請を蔑ろにしてでも、債権者側の弁護士が成功報酬を回収できない危険を増やしたいということのようです。
河野氏は、
貸金業法の改正により、小口金融市場に対する過剰な規制が行われるようになり、闇金が跋扈するようになった現状を反省し、健全な市場を形成していくための法改正が必要。
と仰るのですが、貸金業法改正により闇金が跋扈するようになったとする立法事実自体が大いに疑問ですし、上記提言が闇金対策に繋がるようにも思われません。
河野氏は、
大手消費者金融の残高は、06年1月の8.3兆円から10年12月の2.9兆円に7割減。
成約率も同じ期間に55%から33%に低下した。
ことをお嘆きですが、消費者が消費者金融から高利の金を借りなくなったということはむしろ歓迎すべきことのように思われます(一時期、大手消費者金融のテレビ広告が、「見栄を張るための資金調達」の手段としての消費者金融の利用を誘引していたことは記憶に新しいところです。そのような不要不急の高利ローンの利用が減少していくことの何を憂う必要があるのでしょうか。)。
市民法律相談の現場にいれば、クレジットカードや消費者ローンにまず手を出し、返せなくなって、徐々に高利貸しに手を出すようになっていき、ついには生活が破綻し、場合によっては犯罪に手を染めたり自殺したりという例が多かったこと、「過払い金返還業務に特化した一部の弁護士・司法書士」の宣伝活動のおかげで、近時はそこまで行かないうちに法律相談等に来てくれるためか、高利貸しに生われる相談者に遭遇する例が格段に減ったことを実感できるのではないかと思います。
法律実務家が積み上げてきたことを、大手消費者金融の意向を受けた国会議員たちが立法で踏みにじる姿が近々見れそうな気がします。
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