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octobre 2012

09/10/2012

犯人の特定とボットウィルス感染可能性

 大阪市のホームページに無差別殺人予告を書き込んだとしてアニメ演出家が逮捕、起訴された件について、殺人予告に用いられていたパソコンが遠隔操作型のコンピューターウイルス(ボットウィルス)に感染しており、第三者が遠隔操作により殺人予告投稿を行った可能性があることがわかり、このアニメ演出家は釈放されました。

 当該情報の発信に用いられたIPアドレスとタイムスタンプから当該情報の発信に用いられたアカウントを特定し、そのアカウントの割り当てをISPから受けていた人(以下、「アカウント名義人」といいます。)の氏名・住所を特定して、これを手がかりに違法情報の発信者を特定するというのが──抜け道が多いとはいえ──違法情報の発信者を特定する方法の主流となっています。従って、上記のような事案が発覚したからといって、「ボットウィルスに感染した可能性がある」としてアカウント名義人が犯行を否認しさえすれば、そこで捜査は終了ということになれば、ネットは、警察が関与できない無法地帯と化すことになります。というのも、「未知のものも含めて、一切のボットウィルスに感染していないことの証明」を確実に行うことは不可能だからです。

 「ネットは、警察が関与できない無法地帯であるべき」とは考えない場合、ボットウィルスへの感染の有無に関する立証責任の分担及びその程度をどのように考えたらよいでしょうか。

 捜査側としては、捜索差押え、処分決定などの重要なポイントポイントで、その時点で最新のデータに更新されたウィルス検出ソフトを使ってウィルスチェックを行い、それでボットウィルスへの感染が見つからなければ、ウィルスへの感染はないものとしてその先のステージに進むことができるとせざるを得ないでしょう。そして、起訴後においても、弁護人からの要求があれば、弁護人が指定する(汎用的な)ウィルス検出ソフトを用いたウィルスチェックを行うことまではすべきだと思いますが、それを超えて、(未だ知られていないものを含めた)一切のボットウィルスに感染した可能性が皆無であることの証明まで果たさなければ起訴できず、また有罪とされることもないとまでは思いません。「合理的な疑いを差し挟む余地」がある場合には有罪とすべきでないとはいうものの、「抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても、健全な社会常識に照らして,その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合」には「合理的な疑いを差し挟む余地」はないとするのが最高裁判例です(最判平成19年10月16日刑集61巻7号677頁

 なお、今回の事件では、被疑者が否認していたことを重視する見解が多いようですが、捜査段階で被疑事実を否認し続けられるかどうかは、取調官の手法と被疑者のパーソナリティ、及び、被疑者段階の弁護人の力量で決まる部分も大きいので、そこを重視するのは適切ではなく、上記ウィルスチェック作業は、被疑者が否認を続けているか否かにかかわらず行うべきでしょう。

 では、民事における発信者情報開示請求訴訟において、CGM事業者ないしアクセスプロバイダが「利用者のパソコンがボットウィルスに感染しており、遠隔操作により当該特定電気通信が発信された」可能性があるとして、開示を拒んだ場合はどうすべきでしょうか。

 条文解釈としては、開示請求者が立証責任を負うのは、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたこと」であり、アカウント名義人が権利を侵害したことの立証責任までは負わないですし、一般に、権利侵害の成否が発信者の主観的要素の如何により決定するとしても開示請求者は発信者の特定の主観的要素の存否の立証責任まで負わないとするのが通説ですので、開示関係役務提供者がウィルス感染の可能性を指摘して発信者情報開示を拒むことは許されないと解するべきでしょう。

 そして、「アカウント名義人のパソコンがボットウィルスに感染しており、当該特定電気通信は第三者が当該パソコンを遠隔操作して投稿したものである」蓋然性は実際にはそれほど高くないこと、アカウント名義人の方が上記事情の有無の立証が一般に容易であることなどを考慮した場合、損害賠償請求を行う原告が、被告の登録アカウントから当該特定電気通信が発信されたことを、アクセスプロバイダからの通知書等により立証すれば、当該特定電気通信発信当時被告の使用しているパソコンがボットウィルスに感染していたなどの特段の事情を被告が主張・立証しない限り、被告自身が当該特定電気通信を発信したことが推認される(事実上の事実推定)ものとすべきなのだろうと思います。

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