空想に基づく言論
私たちは、どこまで池田信夫さんの「空想に基づく言論」に配慮する必要があるのでしょうか。
池田さんは、「人権派弁護士って何?」というエントリーの中で次のように述べています。
去年、ブッキーニという「国連特別報告者」が「女子学生の30%が援助交際をしている」と記者会見で発表して大騒ぎになった問題の仕掛け人が、伊藤和子という弁護士です。
昔の福島瑞穂ほどスケールは大きくないが、やっていることは同じです。さすがに「30%が売春」という報告には外務省も怒り、国連広報センターに問い合わせたところ「13%の間違いだ」というが、その根拠は不明です。伊藤和子を中心とする「人権活動家」のだれかが吹き込んだ嘘としか考えられない。
ここでの摘示事実は、
- ブッキーニという「国連特別報告者」が「女子学生の30%が援助交際をしている」と記者会見で発表して大騒ぎになった問題は伊藤和子という弁護士が仕掛けたものである。
- ブッキーニに女子学生の13%が売春という嘘を吹き込んだのは、伊藤和子を中心とする『人権活動家』のだれかである
しかし、どうも確たる根拠はないようです。それどころか、この二つは相互に矛盾します。ブッキーニに女子学生の13%が売春という嘘を吹き込んだのが「伊藤和子を中心とする『人権活動家』のだれか」であるという程度の情報しか有していないのであれば、「問題の仕掛け人が、伊藤和子という弁護士です」などという個人を特定した断定などできるはずがないからです。
さらに池田さんは、「空想で他者を罵る」という芸を続けます。
こういう人々は、今は「人権」を売り物にしているが、昔は「左翼」を自称していました。その元祖は、1960年代の学園紛争で逮捕されたり退学になったりして、まともな人生を歩めなくなった人々です。当時は大学中退で受けられるのは司法試験ぐらいだったので、こうしたドロップアウトの人が大量に司法試験を受け、弁護士になりました。
彼らが今でも各地の弁護士会のボスになり、総本山の日弁連を支配しているため、その会長声明も「安保法制は、集団的自衛権の行使を容認するなど恒久平和主義に反するとともに、立憲主義及び国民主権に反するものであり、当連合会は、その廃止・改正を求めている」といった左翼のアジビラみたいなものばかりです。
とした上で、中本・日弁連会長の声明文にリンクを貼っています。
これを普通の人が読むと、現会長である中本弁護士も、「1960年代の学園紛争で逮捕されたり退学になったりして」「司法試験を受け、弁護士にな」った人のように誤解されてしまいかねません。しかし、こちらをみれば分かるとおり、中本弁護士は、京大工学部→京大工学研究科修了という経歴であって、池田さんの空想はかすってすらいないようです。
さらに池田さんの空想は続きます。
こういう団塊の世代の落ちこぼれには「大学をちゃんと卒業していれば役所や大企業に入れたのに…」というルサンチマン(うらみ)があるので、国や企業を悪者にするのが大好きです。その代表が福島瑞穂で、多くの「弱者」を集めて多額の弁護士報酬をとるビジネスモデルは大したものです。おかげで、彼女の金融資産は2億5000万円もあります。
これを素直に読むと、福島瑞穂先生もまた、「1960年代の学園紛争で逮捕されたり退学になったりし」た「団塊の世代の落ちこぼれ」の一員であるかのように読めます。しかし、福島瑞穂先生は1955年生まれですから、「1960年代の学園紛争で逮捕されたり退学になったり」はしていなかったでしょう。実際、福島先生は、東京大学法学部をちゃんと卒業しています。
また、これを素直に読むと、福島瑞穂先生が、弁護士時代に、「多くの『弱者』を集めて多額の弁護士報酬をとるビジネスモデル」を採用していたと読めますが、それがどのような「ビジネスモデル」なのかは明らかでなく、また、そのような「ビジネスモデル」を福島先生が採用していたことを裏付ける資料は提示されていません。
これをみると、福島先生は弁護士時代に「医者の離婚訴訟に関与する事も多」かったそうなので、1987年の弁護士登録から1998年の参議院議員就任までの間に2億円程度の蓄財をなすのに特別に「ビジネスモデル」は不要だったのではないかと思うのです(だって、この間、バブル経済のまっただ中だったのですよ。そして、離婚訴訟の成功報酬は、慰謝料と財産分与の額に応じて上がっていくのですよ。)。
池田さんの空想はさらに続きます。
こういう左翼系の弁護士が派手な事件を引き受けるのは売名のためで、総会屋と組んだ河合弘之弁護士や、朝鮮総連と組んで「強制連行」の嘘を売り込んだ高木健一弁護士のように、他に大きな資金源があることが多い。最近では、サラ金の「過払い訴訟」や福島原発事故の東電に対する訴訟が大きな資金源です。
これを素直に読むと、高木健一弁護士が強制連行問題を引き受けた際の資金源が朝鮮総連であったように読めますが、高木弁護士が強制連行問題を取り上げるにあたって朝鮮総連から資金提供を受けていたことを示す資料は何ら示されておりません。
また、上記文章からは、サラ金の「過払い訴訟」が派手な事件を引き受ける左翼系弁護士の資金源になっているかのように読めます。しかし、宇都宮弁護士などの「左翼系」弁護士がクレサラ対策に奔走していた頃は、むしろクレサラ対策は効率の良い業務ではなかったのであり、その後の新判例等でクレサラ相手の過払い金請求訴訟が簡単にできるようになって以降は、むしろノンポリの専業事務所(司法書士を含む。)が需要をさらっていったのであり、サラ金の「過払い訴訟」が派手な事件を引き受ける左翼系事件の資金源となっていたとは信じがたいところです。福島原発事故の東電に対する訴訟にしても、< a href = "http://ghb-law.net/?page_id=123">これを見る限り、「資金源」といわれるほど儲かる気がしません。
さらに、池田さんは続けます。
要するに、彼らのいう「人権」とは自分の金づるになる依頼人の権利であり、それをダシにして国から金を巻き上げる口実にすぎないのです。その証拠に、「伊藤弁護士の活動はAV女優への差別だ」という当のAV女優との話し合いを、伊藤は拒否しました。
私たち弁護士は、「要するに」という言葉が使われていると、その語の前に書かれているものから導かれる結論がその語のあとに記載されていることを期待してしまいますが、慶應義塾で博士号をお取りになった方は「要するに」の用法も私たちとは異なるようです。「派手な事件を引き受ける左翼系弁護士」の資金源が別にあるというのであれば、彼らがその人権を守れと主張する依頼人を「金づる」にする必要もなければ、それを出しにして国から金を巻き上げる必要もないように思われます。
また、「伊藤弁護士の活動はAV女優への差別だ」という当のAV女優との話し合いを、伊藤は拒否し」たとして、そのことが、「彼らのいう「人権」とは自分の金づるになる依頼人の権利であり、それをダシにして国から金を巻き上げる口実にすぎない」ことの証拠になるのかがよく分かりません。池田さんが様々な人をブロックして話し合いを拒否していることは、いかなることの証拠になるのでしょうか。
そもそもの話をすると、伊藤弁護士のAV業界関係の活動としては、この件が思い浮かびますが、所属プロダクションからのAV出演要請を断った女性に対する2460万円の違約金請求訴訟で女性の側に立つことがどうして「AV女優への差別」と言うことになるのか不明です。
また、AV女優との話し合いを伊藤弁護士が拒否したという件についても、ここを見る限り、「4日の午後にこんなイベントがあります。」としてイベントへの参加を誘ったのは今一生さん(@conisshow)というライターさんであってAV女優の方ではありません。そもそも今一生とこのイベントの主催者との関係も分かりません。さらに誘った日時が「2016-05-03 23:14:27」で「4日の午後」のイベントに誘われたって、普通はいかんともしがたいところです。どうしても、伊藤弁護士をイベントに呼びたければ、場所と日時について、まず伊藤弁護士の都合を聞くのが常識というものですよね。
伊藤弁護士が池田さんに対し名誉毀損訴訟を提起しただけでやれスラップだと騒ぎ立てた方々が少なからずおられるようですが、弁護士たちは、池田さんの空想に基づく批判をあとどれくらい甘受し続けなければならないのでしょうか。
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