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septembre 2016

28/09/2016

重国籍者の被選挙権を制限する公職選挙法改正案について

 日本維新の会が公職選挙法の改正案を国会に提出したそうです。

 同党のウェブサイトによると、国会議員の被選挙権に係る国籍要件について、「日本国民」であることの他に、「外国籍を有する日本国民(国籍選択期間内にあるもの及び国籍選択宣言をした者を除く)は被選挙権を有しない」という要素を付け加えるのだそうです。

 現行公職選挙法は、議員の国籍要件については、10条1項柱書において「日本国民は、左の各号の区分に従い、それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する」と規定するにとどまりますので、立法技術的には、「被選挙権を有しない者」についての規定である同法11条の2に第2項を加えるか、11条の3という規定を新設するかするのでしょう。

 しかし、そのような公職選挙法の改正がなされた場合、憲法違反とはならないのでしょうか。

 まず、被選挙権の憲法上の根拠については見解が分かれています。

 最判昭和43年12月4日刑集22巻13号1425頁によれば、

憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定し、選挙権が基本的人権の一つであることを明らかにしているが、被選挙権または立候補の自由については、特に明記するところはない。/ところで、選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法一五条一項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである

とのことです。

 もちろん、被選挙権とて絶対的な権利ではありませんので、公共の福祉に適合するように、一定の内在的な制約を受けることはあります。とはいえ、被選挙権が他の国民の人権と衝突するという事態は通常ないこと、被選挙権が制約されると言うことはその者の利益が害されるだけではなく、その者への投票を望むその他国民の選挙権を実質的に制約すること、不適格者は国民が選挙権の行使により排除すれば足りること等に鑑みれば、被選挙権の制限は極めて例外的な場合についてのみ認められると言うべきでしょう。

 現行法上、被選挙権が制約されているのは以下の場合に限られています。

  •  一定の年齢に満たない場合(10条1項)
  •  禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(11条1項2号)
  •  禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)(11条1項3号)
  •  公職にある間に犯した刑法197条 から第197条の4 までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1条 の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者(11条1項4号)
  •  法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者(11条1項5号)
  •  公職にある間に犯した刑法197条 から第197条の4 までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1条 の罪により刑に処せられ、その執行を終わり又はその執行の免除を受けた者でその執行を終わり又はその執行の免除を受けた日から5年を経過したが10年を経過していない者(11条の2)。

 では、重国籍者が被選挙権を有するということは、これらの者が被選挙権を有することとするのと同様の問題があるのでしょうか。この点に関しては、昭和59年8月2日の参議院法務委員会における飯田忠夫参議院議員(公明党)と枇杷田泰助・法務省民事局長との議論が参考になります。

 飯田議員は、戦前の旧国籍法の第16条が帰化人、その子、日本人の養子、入夫等が国務大臣とか大審院長、会計検査院長、帝国議会の議員となることを制限していたことを指摘した上でその趣旨を尋ねます。これに対し、批把田局長は「これは国の重要な意思決定あるいは国権の重要な作用を担当する者につきましては、かつて外国人であったという方については適当でないということを考えてこういう規定を設けただろうと思います。そのようなかつて外国人であった者については適当でないという考え方は、まだ十分に日本人になり切っていないのではないかという危惧がある、そういう者が国の意思を決める重要な地位に立つというふうなことは若干危険ではないかというような発想からこのような規定が設けられたというふうに古い書物などには書いておるところでございます。」と答えます。これを受けて、飯田議員は、「現在の我が国の国情から言いまして二重国籍者、これは前は外国人、まあ前は外国人じゃないとしても現在同時に外国人である、そういう人ですね。日本人であると同時に外国人であるという場合に、旧国籍法で心配されたようなことがないと言い得るかどうか、大変疑問が存在すると思いますが、この点についてはいかがお考えですか。」とたたみ掛けます。これに対し、批把田局長は、現行国籍法にそのような規定が敢えて置かれていない理由について「旧国籍法のようなそういう危惧の念というものをこれは持つ必要はないだろう、殊に非常に民主主義というものが強く打ち出されました新憲法下におきましては、そのようなもし他国籍もあわせ持つ者とか、あるいはかつて外国人であった方であっても、これは要するに国民の意思、そういうようなものによって重要な国権の作用を果たす者が選ばれていくということでありますから、そういうところで実質的にチェックできるであろうというふうなことも考慮されているところだと思いますが、現在ではそういうような危惧を法律上とる必要はないという立場にあるものと考えております。」と答えます。

 飯田議員はなおも「二重国籍ということは、御承知のように現在日本人であると同時に外国人だと、こういうことですね。日本人と外国人とが同居しているわけなんですが、人間の心というものはなかなか外からわからないんです。日本人と外国人が同居している場合に、その人の心は日本人なのか外国の方を向いているのかはっきりしないでしょう。そういうはっきりしない人が我が国の総理大臣になる、国会議員になるということでいいのかどうか、日本の政治を左右することになることが、それで日本の国家主権は守られるかという問題に関連するんですが、その点はいかがですか。」と追及しますが、批把田局長は「確かに国の重要な地位に立つということは、国の将来をも決めるようなそういう意思決定をする立場にあるわけでございますので、したがいまして、日本の国というものを考え、そして日本の国民全体が連帯意識を持つ、そういうような考え方の強い方が望ましいことは当然だろうと思います。それを二重国籍者であるからといって、当然にそういう考え方がないだろうというふうに一つのパターンを決めて法律上制限をするということまでは必要ないだろう、それは日本国籍を持っておられる方であっても、場合によっては今申し上げましたような点においては十分でないという方もおられるかもしれません。ですから、それは個々の方の問題であって、法律的に一つのパターンを決めて、そしてある資格を奪うというふうなことはいかがなものであろうかというのが現行法の考え方でございます。」と答えるのです。

 この後、飯田議員は、批把田局長では埒があかないと考えたのか、「二重国籍者に被選挙権を無制限で認めるということは政治上障害が起こらないと合理的に判断させる根拠がありますか、お尋ねします。これは今法務省ばかりお尋ねしましたので、自治省のお方と内閣法制局のお方に御答弁を願います。」と矛先を変えます。これに対し、浅野大三郎・自治省行政局選挙部選挙課長は、日本国籍のほか他の国の国籍を有する二重国籍者が国会議員となるということも現行法上可能ということになっていることを確認した上で、「お尋ねは、一体それで政治上障害が起こらないという合理的理由があるかどうかということでございますが、大変難しい問題でございます。ただ、私どもといたしましては、これまでのところそういう二重国籍者が選挙権を行使する、あるいは選挙によって選ばれる、公職についたことにょりまして何らかの障害が生じたという事例は承知しておらないところでございます。」と答えるのです。結局、この日、飯田議員は、政府委員の賛同を一切受けられずに終わります。

 実は、飯田議員は、昭和59年5月10日の参議院法務委員会でも、重国籍者の被選挙権についての議論を仕掛けています。

 飯田議員は、まず、外国人の基本的人権についての一般論から入ります。「十四条は必ずしも外国人と国民との間の平等をどんな場合でも保障するというのじゃなくて、国に対して余り直接の影響のない分野においては保障する、例えば民事問題などについては保障するが、いわゆる選挙権だとかいったような問題、あるいは兵役の義務でも構いませんが、こういうような問題については日本人と外国人との間にはやはり差別を設けるのだ、設けても憲法違反にはならないのだというふうな受け取り方をしてもよろしいでしょうか。」との確認を行い、関守・内閣法制局第二部長から「ただいま申し上げましたとおり、外国人につきましても法のもとの平等という考え方は押し及ぼされて考えられてしかるべきであるということが最高裁判所の判例などからも言われているわけでございますけれども、その場合に、すべて同じでなくてはいけないということではなくて、合理的な理由があれば個々に合理的な範囲における異なった取り扱いをするということも憲法上許されるということでございまして、御指摘の選挙権等につきましては、これは事柄の性質上、国民が国家の政治に参画するということでございますので、それを外国人に認めないということが憲法上許されないということにならないことは当然だろうと思います。」との答弁を引き出しています。

 その上で、飯田議員は、「もう一つ法制局にお尋ねをしたい点、同じく憲法十四条の保障の問題ですが、重国籍者にも無制限に保障が行われるかという問題です。今度の父母両系主義をとりますと重国籍者が出るのですが、この場合に、その重国籍者にも憲法十四条の保障は無制限に差別をしないという保障がなされるのか。重国籍者は日本籍を持っていますからね。お尋ねします。」とたたみ掛けます。これに対し、関部長は「重国籍者というのは、何と申しましょうか、日本の国民であると同時に外国籍を有するという特別の立場に立つ人でございますが、先ほど申し上げましたように、要はそういう異なる取り扱いをするということが合理的であるかどうかということになるかと思います。それによって決せられるべき問題であろうというふうに考えます。」と答えます。これを受けて、飯田議員は、「日本人と外国人との間がはっきり差別が分かれておる場合には、これは合理的だというふうに考える場合も出てくるでしょうね。例えば外国籍の者が日本の総理大臣になるとか国会議員になるなんていうたら困りますからね。これはもうはっきりできると思いますが、日本国籍と外国国籍と両方持つように今後なりますので、その場合に重国籍者に対して憲法十四条は無制限に適用になるか、つまり参政権も制限しないで与えるのか、こういうことなんです。また高級公務員、例えば各省の次官だとかあるいは局長だとか、そういう職につくことを認めるのかどうか。これは行政、政治の問題に密接に関連いたしますので、法制局の御意見がそのまま将来通ることになるから、これ気をつけて御答弁願います。よろしくお願いします。」とさらにたたみ掛けます。しかし、関部長は「重国籍者につきましては日本国民であると同時に外国の国籍を有するという特別の立場の方々でございます。こうした重国籍者の参政権あるいは公務員になる能力の制限の可否の問題につきましても、結局はそれが合理的なものと言えるかどうかという点にかかるわけでございまして、これを判断いたしますには、やはりその制限を必要とする事情あるいはその制限の内容、程度などなどを慎重に考慮いたしまして判断すべき問題である、こういうふうに考えております。」と言ってかわします。で、飯田議員は、「どうも抽象的なお言葉ではっきりしませんので、具体的にお尋ねいたしますが、二重国籍者、これは日本の国籍を与えますと外国の方で国籍の離脱を認めなければ二重国籍になりますからね。そういう人が憲法十四条を盾にとって自分も被選挙権があるのだと、こういうわけで衆議院議員の立候補を届け出たとしましょうね。この場合に、法制局の御意見として恐らくこれは選挙管理委員会の方からどうだと言って聞いてくると思いますが、そのときにどのような御返答になるのかお答えを願います。」と深追いを始めます。しかし、関部長は、「今のような問題につきましても、憲法十四条というのは、先ほども申し上げますように物事の性質に応じて合理的な異なった取り扱いをすることまでを禁じているわけではないということでございますので、今ここでちょっとその点についてどうというふうに申し上げにくいのでございますけれども、そういう制限をすることの可否についても、今申しましたようないろいろなそれを判断するべき要素というものを勘案いたしまして検討を加えるということになると思います。」と言ってなおもかわします。飯田議員はなおも追及の手を緩めません。「今私のお尋ねしたのは、選挙権とか被選挙権を与えるかどうかということなんですよ。それで、これはもう明確にお答えできると思いますが、つまり重国籍者、これは外国の主権に奉仕する義務を有する者でしょう。国籍を持っておる以上はその国の国民ですから、その国の国民は国の主権者です。例えばアメリカの国民はアメリカの主権者でしょう。同時に日本の主権者である。そういう場合に被選挙権を与えるということになりますと、アメリカの国に忠誠義務を尽くすことを要求されておる人が日本の国会議員になる、場合によっては自由民主党に属すれば総理大臣にもなる、こういうことになりましょう。そういう場合に具体的な条件を考えてなんていったようなことで済むかどうか。いかがですか。」と質問をします。関部長は、いよいよかわしきれないと判断したのか、「私どもは先ほど申しましたように憲法十四条というのは合理的な差別を禁止するものではないと考えておりますので、一概にそういう制限ができないものではないというふうには考えておりますけれども、今すぐ選挙権なり被選挙権の制限についてどうかということはなかなか難しい問題だろうということで、さらに検討させていただきたいというふうに考えるわけでございます。」と答弁します。深追いが失敗してしまいました。

 でも、飯田議員はめげません。なおも、「主権国家の立場から考えますと、二重国籍で外国の国籍を持っておる人が日本の憲法を盾にとって主権国家に反するような権利を要求するということは権利の乱用ではないか。権利の乱用であれば、憲法上認める必要はないのではないかと私は考えますが、法制局はどうお考えになりますか。」と追及します。しかし、さすがにこの立論には無理がありすぎるので、関部長に「重国籍者になるということは各国の国籍法の法制の違い等によりまして生じてくるわけでございまして、それによってそれぞれの国の法制のもとにおいて参政権が得られるということになります場合に、その権利があるということになったからといって主張できないということに必ずしもならないのじゃないか。それが権利の乱用になるというふうには私どもは考えておりません。」と答えられてしまいます。

 結局、飯田議員の努力は実を結ばず、重国籍者に被選挙権を認めるべきでないとの見解は政府委員たちの賛同を得られぬまま終わるのです。

 昨今の議論もまた、この飯田議員の議論の繰り返しに過ぎず、重国籍者から一律に被選挙権を奪うことの合理性を根拠づけるものは見当たらないようです。

 そもそも、選挙で選ばれる公務員(議員や自治体の首長など)は、様々な利害ファクターの代弁者としての性質を必然的に有しており、その選出母体や主たる支持者層の利害を全体の利害より優先させる可能性が不可避的にあるわけです。私たち有権者は、各立候補者が、特定の利害ファクターの代弁者であることを十分知りつつ、それを考慮要素に加えた上で、当該利害ファクターの利害を代弁しすぎる場合には対立候補者に投票するなどして、そのチェックを果たすことができるわけです。だからこそ、特定の利害ファクターの代弁者となり得ると言うだけの理由で被選挙権を奪われることはないわけです。そうだとすれば、重国籍者が、もう一つの国籍国という利害ファクターの利害を代弁する傾向にあると言うことが仮に言えるとしても、そのことは一律に被選挙権を奪う合理的な理由とはならないということになります。

 さらに言えば、日本を常居所地として選んでいる重国籍者が、もう一つの国籍国という利害ファクターの利害を代弁する傾向にあると言うことは、全く実証されていないわけです。普通に考えれば、重国籍者であろうと、現実に通常生活している国籍国と、単に籍を抜かずにいるだけの国籍国とで利害が対立する場合には、現実に通常生活している国籍国の利害を優先させた方が、そこで生活している自分にとっても通常有益なわけで、敢えて、通常生活していない国籍国の利害を優先させる必要はないわけです。

 これらの点に鑑みれば、重国籍であると言うことを理由として被選挙権を制限しようという日本維新の会の公職選挙法改正案は憲法違反のそしりを免れないだろうと思います。

19/09/2016

重国籍に関するあれこれ

 蓮舫議員を巡る国籍法関係のあれやこれやについて未だに間違った情報が横行していますので、平均的な高校生でもわかるように解説してみることにしましょう。

 まず、前提事実から見てみましょう。蓮舫議員は台湾人のお父様と日本人のお母様との間に嫡出子(法的に有効な婚姻をした夫婦の間の子)として生まれています。ここで「台湾人」というのが法的にはくせ者です。第二次世界大戦で敗戦し日本が領有権を放棄する前は、台湾も日本の一部だったので、台湾人は日本国民であったのです。しかし、敗戦後は、台湾は蒋介石率いる中華民国政府の支配下におかれます。このため、日本政府は、台湾も中国本土と一緒に「中華民国」を構成するものとして法的に扱うことになり、日本に在留する台湾人を「中華民国」の国民として扱うことになりました。しかし、その後、中華民国政府は中国本土の支配権を中華人民共和国に奪われてしまいます。それでもしばらくは、日本政府は、中華民国を、中国本土及び台湾の正統な政府として扱ってきたのですが、田中角栄首相による日中国交正常化以降、中華人民共和国を中国の正式な政府と承認することになったのです。これが1972年のことです。ではこのとき、中華民国政府が実効支配をしていた台湾についてはどう取り扱うことになったのでしょうか。日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明の第2項及び第3項を見ると次の通りとなっています。

二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

 これによれば、日本政府は、「台湾は中華人民共和国の領土の一部だ」という中華人民共和国政府の立場を尊重することになっています。この結果、日本政府は、中華民国を「国家」としては取り扱わないことになります。とはいえ、台湾島を実効支配しているのは中華民国政府であり、中華人民共和国からビザを受けて台湾等に上陸したのでは捕まってしまいますので、中華民国を国に準ずるものとして扱うことになります。

 では、日本に在留する中国人の扱いはどうなっていったのでしょうか。ちゃんと調べていないのでわかりませんが、日本政府との関係では、彼らの本国が中華民国から中華人民共和国に変わったので、彼らの国籍は中華民国籍から中華人民共和国籍へと当然に変わったと考えるのが自然です。ただし、中華民国の中でも台湾省に本籍がある人々については、中華人民共和国籍にして実務が回るのかという問題が生じます。そこで日本政府は苦肉の策として、彼らを「中国台湾省」の国民として扱うことにしたのです。

 蓮舫は1967年生まれですから、日中国交正常化前に生まれています。蓮舫のお父様は中華民国籍、お母様は日本国籍でした。当時の国籍法は、嫡出子については「父親が日本国籍を有していればそれだけで日本国籍が付与されるが、母親だけが日本人である場合には日本国籍は付与されない」という「父系主義」を採用していました。このため、蓮舫は、出生時には日本国籍は与えられておらず、「中華民国」の国籍のみが付与されました。その後、日中国交正常化により、日本政府が、中華人民共和国を中国の唯一の正統な政府と認め、「台湾は中華人民共和国の領土の一部だ」という中華人民共和国政府の立場を尊重することになり、蓮舫は、「中国台湾省」の国民という微妙な立場におかれることになります。

 ところで、この「父親が日本国籍を有していればそれだけで日本国籍が付与されるが、母親だけが日本人である場合には日本国籍は付与されない」という「父系主義」は、憲法第14条で禁止された「女性差別」にあたるのではないかという疑問がわき起こり、訴訟等も提起されるようになります。さらに、日本は、1985年に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に批准したため、日本国内にある「女性に対し差別的な制度」を改める国際法上の義務を負うことになりました。そこで、日本政府は、嫡出子については、父親か母親の一方が日本国籍を有すれば当然に日本国籍が付与される「両系主義」を採用することとする国籍法改正案を国会に提出し、この改正案は1984年に可決され、1985年から効力を生ずることになりました。

 その際に、改正国籍法が発効する前に外国籍の父親、日本国籍の母親との間に生まれた子について、わずかな生まれ年の違いで日本国籍が与えられないとするのは不合理なので、救済措置を設定することにしました。これが、昭和59年改正の附則5条です。同条の第1項と第4号を見てみましょう。

昭和四十年一月一日からこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)の前日までに生まれた者(日本国民であつた者を除く。)でその出生の時に母が日本国民であつたものは、母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、施行日から三年以内に、法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
4  第一項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

 蓮舫議員は、この規定に基づく届出を行うことにより、日本国籍を取得したのです。

 この方法で日本国籍を取得した場合に、それまで有していた国籍はどうなるのでしょうか。それは、その国籍国の法律によって定まるのであって、日本国政府の関与するところではありません。意図的に他国の国籍を取得したとして当然に国籍を喪失するという制度を採用している国もあれば、そうではない国もあります。そうではない国の国籍を有していた場合には、日本国籍を取得してもなお元の国籍を保有し続けることになります。このように二つ以上の国の国籍を同時に有している状態のことを「重国籍」といいます。日本を含む多くの国では、一定の場合に重国籍状態が生ずることをわかった上で国籍の得喪に関するルールを定めていますので、そのルールの範囲内で重国籍となっていること自体は違法でもなければまして「国籍法違反」ということにはなりません。

 では、蓮舫の場合はどうなのでしょう。在留台湾人である蓮舫さんについて、日本政府との関係において、中華人民共和国法が適用されるのか中華民国法が適用されるかによることになります。中華人民共和国法ですと、「外国に定住している中国公民で、自己の意思によって外国の国籍に入籍し又は取得した者は自動的に中国国籍を失う。」(9条)とありますので、附則5条の届出により日本国籍を取得すると同時に中国国籍を失います。中華民国の国籍法にはそのような内容の明文上の規定はありません。したがって、判例法で中華民国の国籍を当然に失う場合が認められていない限り、附則5条の届出により日本国籍を取得しても中国国籍はなお残るということになります。

 日本の国籍法は、重国籍者となった者に対し、重国籍となったのが二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、どちらか一つの国籍を選択することを義務づけています(14条1項)。もっとも、国籍の選択というのは、「父親の母国を取るか母親の母国を取るか」という決断を迫るものとなりますから、二十歳を少し過ぎたばかりの若者たちには重すぎる決断です。このため、国籍法は、重国籍者が上記選択を怠ったからとして、これを違法状態とすることを避け、法務大臣から国籍選択の催告がなされた後1ヶ月が経過するもなお国籍を選択しない場合には日本国籍を喪失させるというし制度を採用するに留めました。

 なお、現在のところは、重国籍であると思われる人に対して法務省から国籍の選択をしたかの確認を促すパンフレット等が送られるに留まり、法務大臣が国籍選択の催告を行った例はないとのことです。

 日本国籍を選択する方法としては、① 外国の国籍を離脱するという方法、② 戸籍法 の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言をするという方法、の2通りがあります(14条2項)。①と②は互いに独立していますので、②の方法により日本国籍を選択する場合には、先行して外国の国籍を離脱している必要はありません。蓮舫議員の発言を聞く限り、②の手続をとったようです(当時、蓮舫議員は高校生であり、お父様の指示に従って手続をしただけなので、何をしたのかの詳細は理解していないようですが。)。

 ②の方法で日本国籍を選択した場合に、もう一つの国籍はどうなるでしょうか。もう一つの国籍国が日本の国籍法と同様の規定を有している場合には、日本国籍選択と同時にその国の国籍は失われることとなります。しかし、もう一つの国籍国がそのような制度を採用していない場合には、なお重国籍状態が継続することとなります。日本の国籍法は、そのような重国籍状態が継続することを制度的に予定していますので、これは違法状態ではありません。中華民国の国籍法を見ると、重国籍者が外国国籍を選択した場合についての規定が見当たりません。特別法か判例に基づいて処理している可能性もあるので、何とも言いがたいところです。なお、重国籍者による外国国籍の選択と、外国への帰化とは別概念ですので、「帰化の際に台湾国籍を喪失する場合にはこういう手続が必要だった」という話は、「日本国籍を選択した後台湾国籍を離脱するための手続」がどのようなものであるかを知る手がかりにはなりません。長期滞在国に帰化する場合はそれまでの間自国の有効なパスポートを有しているのが通常ですが、重国籍者が一方の国籍国で生活する分には、他方の国籍国のパスポートを取得しないのが原則なので、「自国の有効なパスポートを有していない限り、他国の国籍選択に伴う国籍の離脱を認めない」とする制度を採用することは合理性を欠くからです。

 ところで、国籍法16条1項は、「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。」という規定を置いており、この規定を根拠として、外国国籍の離脱手続をせずに重国籍状態を継続することを違法だとする人がネット上ではあとを絶たないようです。しかし、国籍法に関する解説書や論文を読めば、この規定は、法的拘束力のない訓示規定であると解されていることがわかります。したがって、日本国籍を選択した後、外国の国籍を離脱せずに放置しておいても、違法ではありません。

 また、同条2項は次のような規定を置いています。

法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。

 この規定を反対解釈すれば、日本国籍を選択後外国の国籍を離脱せずに放置しているに過ぎず、上記のような外国公務員の職に就任していない場合には、法務大臣と手日本国籍の喪失宣言はできないということになります。

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