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15/01/2017

2015年の日韓合意の解釈について

 従軍慰安婦問題については、平成27年12月28日付の日韓両国の外務大臣の共同記者発表をもって、政府間での解決が果たされました。その内容は、こちらのWEBページに掲載されています。しかし、この共同記者会見の解釈については、誤解が多いようです。

 1つは、日本側から韓国側への拠出金の意味についてです。これを、駐韓日本大使館前の少女像の撤去の対価とする見解がまことしやかに流れているようです。しかし、岸田外務大臣の声明(2)によれば、韓国政府が元慰安婦の方々の支援を目的として設立した財団に日本政府の予算で資金を一括で拠出するのは、「今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ことの具体的な方策の一旦として位置づけられており、かつ、「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ことの主体は日本政府とされています。尹外交部長官の共同声明(2)にあるとおり、韓国政府は、上記措置の主体ではなく、あくまで「日本政府の実施する措置に協力する」立場にあることになっています。したがって、上記拠出金を、韓国政府による何らかの行為の対価と捉えること自体が間違っていると言えます。

 さらに、尹外交部長官の共同声明を見てみると、(1)では、上記「措置が着実に実施されるとの前提で」韓国政府は「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」こととし、(3)では、上記「措置が着実に実施されるとの前提で」韓国政府は「今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える」としていますが、(2)については上記「措置が着実に実施されるとの前提で」韓国政府が何かをするとは述べられていません。このことから、少女像に関する措置については、拠出金の支払いの実施と対価性を有する韓国政府の行為は何ら想定されていないと見るのが自然です。

 次に、尹外交部長官の共同声明(2)に「(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し」との文言があることから、上記少女像の設置が外交関係に関するウィーン条約に違反するとの日本側の解釈に従って少女像の撤去等を行う義務を韓国政府が負うことになったとする見解も流されているようです。

 しかし、両外相会談の結果上記少女像の設置がウィーン条約に違反するとの日本政府の解釈を韓国政府が受け容れたのであれば、尹外交部長官の共同声明(2)は、「韓国政府は、在韓国日本大使館の少女像が公館の安寧・威厳を害していることを認知し」というような文言となっていたはずです。しかし、そうなっていないのは、「在韓国日本大使館の少女像が公館の安寧・威厳を害している」との点について韓国政府は納得していないからと見るのが自然です。韓国政府による認知の対象は、日本政府が「公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していること」でしかなく、「公館の安寧・威厳を害していると認知していること」ですらないのです。東京大学(といっても先端研)の玉井克哉教授は、この文言を捉えて、「ウィーン条約は一般的な条約なので文言が曖昧だが、日本政府の主張を『理解』した韓国政府が『努力』するというのは、日本政府の主張に沿った条約の運用を約束したものではないのか。それが、合意は拘束する、ということ」「条約に『一意の解釈』などない、しかし日本政府の解釈はその解釈の幅の中に入っている。そして、それを単なる「言いがかり」だとして排斥するのは、日本政府の解釈が可能な解釈だと認め、その尊重と努力を約束した韓国政府の意思に沿わない、無理な解釈である。」などというアクロバティックな解釈をしてみせているようですが、尹外交部長官の声明文を見る限り、これは日本側の懸念の内容についての韓国側の認識を示したに過ぎず、ウィーン条約に関する日本側の解釈について「解釈の幅の中に入っている」との韓国側の認識を示したものではありません(なにしろ、その懸念が適切なものであるかの評価すら表明していません。)。また、相手方の主張が解釈論としてはあり得る幅にあることを認識することまで合意したところで、自分もまたその解釈に拘束されることまで合意したことにはなりません。あり得る解釈が複数ある場合に、最終的にどの解釈を選択するかまでが法解釈論なので、相手方の見解があり得る「解釈の幅の中に入っている」ことまで認めたところで、「その中でその解釈を選択する」ことまで求められないのは当然のことです。玉井教授は、「ウィーン条約というのはさまざまな状況に適用されるのが予定されているので、抽象的で幅の広い文言を用いているのです。そして、日本政府の立場がその幅の中にあることは、件の合意で韓国政府が認めていることです。条約の解釈上ありえない立場を「認識」した上で、尊重し努力するなど、ありえない。」とも述べていますが、「ソウルにある日本大使館前の少女像の設置がウィーン条約に違反するとの解釈には賛同しないが、日本側がその少女像について公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることについては(会談中に何度も聞かされたので)理解した」というのは十分あり得る話です。

 その上で、尹外交部長官の声明文を読むと、尹外交部長官は、上記日本政府の懸念を解消する方向で努力するとは言っていませんし、ましてその日本政府の懸念解消方法を少女像の撤去に限定していません。上記日本政府の懸念に対して、「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。」と表明したに留まります。何をもって「適切な解決」とするかの判断は韓国側に委ねられており、「少女像の撤去」のみが努力義務の目標とする立場を取っていません。「適切な解決」を果たすための手段として例示されているのが「可能な対応方向について関連団体との協議を行う」ということですから、それほどの実効性はそもそも想定されていなかったと言うことができます。

 なお、「可能な対応方向について関連団体との協議を行う」というのは日本語訳としてこなれていない感じがします。英文を見ると、「consulting with related organizations about possible ways of addressing this issue」という表現になっており、意味としては「この問題に取り組む方法として可能なものについて関連する団体と協議を行う」程度の話だと思います。いずれにせよ、努力の具体例として挙がっているのが「関連団体との協議」程度である以上、韓国政府として、少女像の撤去のために実力行使をすることまでは想定されていなかったと言えるでしょう。

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