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26/07/2017

日本国籍を取得していないと親方になれないのか。

 横綱白鵬が、日本国籍を取得するとかしないとかという話が話題になっています。日本国籍を取得するとすれば、それは、引退後、親方となって後進の指導に当たるためと言うことだと思います。ところで、本当に日本国籍を取らなければ親方になれないのでしょうか。

 「親方」というのは俗な名称で、公式には「年寄」という言い方をします。では、日本国籍を有していないと「年寄」になれないのでしょうか。

 公益財団法人日本相撲協会の定款を見てみましょう。「相撲部屋における人材育成業務の委託」に関する規定は第46条に、「年寄」に関する規定は第47条と第48条にあります。引用してみましょう。

 

(相撲部屋における人材育成業務の委託)
第46条この法人は、相撲道を師資相伝するため、相撲部屋を運営する者及び他の者のうち、この法人が認める者に、人材育成業務を委託する。
2 この法人は、委託業務に関して、規程に定める費用を支払う。
3 委託業務に必要な事項は、理事会が別に定める。

(年寄名跡)
第47条 年寄名跡は、この法人が管理するものとする。
2 退任する年寄は、 この法人に名跡を襲者推薦とができる。ただし退任する年寄は、 この法人に名跡を襲者推薦とができ。ただし退任する年寄は、 この法人に名跡を襲者推薦することができる。ただし、退任後5年以内を限度として推薦するものとする。
3 年寄名跡を襲する者は、資格審査委員会で審査した結果に基づき理事会で決定する。
4 何人も、年寄名跡の襲名及び年寄名跡を襲名する者の推薦に関して金銭等の授受をしてはならない。
5 前項の定めに違反した者は厳重な処分をすることとし、これを含めて年寄り名跡に関する規程は理事会が別に定める。

(年 寄)
第48 条 この法人には、協会員として年寄を置く。
2 年寄は、名跡を襲した者とする。
3 年寄は、理事長の指示に従い、協会業実施あたる。

 これを見る限り、人材育成業務の委託先を日本国籍保有者に限定する規定もなければ、「年寄」を日本国籍保有者に限定する規定もありません。したがって、定款上は、外国人力士が、日本に帰化せずに、年寄となり、引き続き日本相撲協会の協会員として後進の指導に当たることは可能です。

 では、退任する年寄が、日本に帰化していない外国人力士を年寄名跡を襲名する者として推薦した場合に、日本相撲協会の理事会が、日本国籍を有していないことを理由として、その力士にその年寄名跡を襲名させないという決定をすることは許されるのでしょうか。

 相撲協会と力士との関係については、雇用契約とする見解と、準委任契約であるとする見解とが対立していたのですが、東京地方裁判所平成25年3月25日(平成23年(ワ)第20049号事件)は、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解した上で、その解除については、民法656条,651条1項による解除ができると解することは相当ではなく、施行細則及び附属規定中の懲罰規定に基づき判断されるべきであって、解雇権濫用法理が直接適用されないにせよ、懲罰規定の解釈,判断における一般的な法理が考慮されるべきことは当然であるとしました。

 力士として引退後、年寄名跡を襲名して、年寄として協会員であり続けることは、相撲協会と力士との間の、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約の、引退に伴う解約ルールの例外として捉えることができます。そして、それは、公益財団法人日本相撲協会の定款上で定められているルールですから、それを可とするか不可とするかについての理事会の決定は、完全に恣意的に行えるものではないように思われます。

 東京地判平成23年12月19日判タ1380号93頁は、東京工業大学が、原告がイラン国籍を有することを理由とする安全保障上の配慮に基づき,東工大原子炉工学研究所の研究生としての原告の入学出願を不許可とする決定をした件について、日本国憲法14条1項に違反するとともに,教育基本法4条1項(教育の機会均等)にも違反するので、違法であり、無効であるとしています。このように、通常一方当事者の裁量で決定することが可能な事項についても、それが日本国憲法等に違反するようなものであれば、その決定自体が違法であり、無効であるとされるわけです。

 日本相撲協会は、国立大学法人ではありませんが、公益財団法人ですので、日本国憲法第14条1項の平等原則に反しないように人事に関する決定を行う義務を有するものと解されても不思議ではありません。そうだとすると、国籍に関する条件がなければ通常年寄名跡の襲名を可とする決定が下されるであろう力士について、日本国籍を取得していないとの理由だけで、襲名を可としない決定を下したときに、その決定が違法であり、無効であるとされる可能性は十分にあるように思います。年寄が行うべき業務(理事長の指示に従った協会事業の実施)に関して、日本国籍を有しなければ困難とされる合理的な理由がありません。また、日本相撲協会は日本国籍を有しない力士を大量に協会員としており、引退後については日本国籍を有しないと言うだけの理由で差別的に取り扱うことに一種の禁反言的要素があるからです(相撲が神事であるということを理由とするのであれば、むしろ、神事たる相撲を執り行う力士が外国人であることの方が問題となるはずであり、既に力士が外国人であることを容認している以上、年寄について日本国籍を求める理由とはなり得ないと言うことです。)。

 日本国籍さえ取得してしまえば、白鵬ほどの力士であれば、確実に年寄名跡を襲名することを可とする決定が下りるので、後進のために敢えて日本国籍を取得せずに年寄名跡の襲名を推薦してもらい、これを不可とする決定を理事会に出させて、法廷闘争に持ち込めと要求するのは酷だとは思います。ただ、日本相撲協会の理事たちは、外国籍を有する力士たちが故郷と後進たちとの間の板挟みにならずに済むように、一日も早く、日本国籍を取得していなくとも年寄となり得るのだというルールに明示的に変えていただきたいものです。

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