Loi

20/05/2012

訴状の必要的記載事項に関する情報の偏在に対する是正方法


日本民事訴訟法学会で下記の質問をしました。

インターネット紛争等を民事訴訟で解決するために、被告の氏名をネット上の仮名(ハンドルまたはID)で訴状を提出しつつ、被告の氏名に関する訴状の補正を行う前に第三者(SNS提供者等)に対して、被告を特定するのに必要な情報(氏名、住所またはIPアドレス)を記載した文書の提出を命ずるよう申立てを行うことは、現行法上可能でしょうか。現行法では不可とする場合、どのような改正が必要でしょうか。

また、SNS提供者等の多くは外国会社なのですが、文書提出命令や命令に応じる文書の提出をメール等で行うことは、現行法上可能でしょうか。

というものです。

前段は、要するに、Jon Doe訴訟は現行法上可能か、不可だとすれば、どうすれば可能となるのかということだったのですが、問題意識自体が伝わらなかったようです。

偏在している事実が「訴状の必要的記載事項」に関するものである場合には、文書提出命令(または、その先取りである証拠保全手続き)による是正が受けられないとする制度的な合理性があるように私には思えないわけです。パネリストさんたちは訴訟外でやってくれというのだけど、「訴状の必要的記載事項」に関する情報の偏在の是正についてのみ訴訟外で行うべきとする合理的な理由はないし、実際、訴訟外で行えることは極めて限定されているわけです。

とりわけ、SNS提供者等が米国企業である場合には日本のプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求に関して日本の裁判所は国際裁判管轄を有しないという見解に立つ場合、重大な問題が生ずる可能性があります。匿名の発信者を被告とする訴訟の中で被告の氏名等を開示させる米国法のもとでは、日本から日本に向けて発信がなされているという場合には、匿名発信者を被告とする訴訟自体が管轄違いで却下される危険があるし、被告たる発信者が日本に在住する日本人であることがほぼわかっているのに、米国の裁判所で訴訟を提起しなければならないというのは、訴訟を起こすまでのハードルが大きすぎます。また、ドメイン取得代行事業者が実質的なドメイン保有者の氏名等を秘匿している場合のように、プロバイダ責任制限法4条1項の適用が難しいときには、訴訟外でなんとかせよといわれてもなんともしようがありません。

後段についていえば、文書提出命令の申立自体をメール等でやらせろといっているものと誤解されてしまったようです。

米国のCGM事業者のサイトをみると、司法当局からメールで照会してもらえれば開示することを謳っているところが少なからずあるので、これに応えて、裁判所が係る業者にメールで発信者情報等の開示を命じることができないんだろうかという話です。文書提出命令の相手方が外国企業である場合に命令書の送達を領事送達で行うのだとすると、一回送達するだけで3〜4ヶ月かかるのです。

基本的には、「民事訴訟法の今後の改正課題」と言ってみても、インターネット紛争を民事訴訟で解決可能なものにして行こうという機運はあまりないということはいえそうです。

09/03/2012

「グーグル株式会社に何を要請しても無駄」という現状から改めよう

 総務省によれば

総務省及び経済産業省は、本日、グーグル株式会社に対し、平成24年3月1日から適用する新たなプライバシーポリシーについて、我が国の多くの利用者に大きな影響を有することから、法令遵守及び利用者に対する分かりやすい説明等の対応をすることが重要である旨を文書で通知しましたので、お知らせします。

とのことです。

 しかし、Googleは、Google Inc.とグーグル株式会社は別法人であって、グーグル株式会社は何ら個人情報を保有していないとの建前を貫くのではないかという気がします。せいぜい、Google Inc.に転送してくれるくらいでしょう。名誉毀損情報等の送信防止措置をグーグル株式会社に求めた場合に、そういう態度をとりますから。

 実のところ、根源的な問題は、インターネットを通じて提供されるサービスの中には、国外の事業者が直接国内の利用者にサービスを提供するところが増えてきているのに、そのような国外の事業者から国内の利用者を守る法的な仕組みをきちんと作っていないところにあります。

 こちらも建前論でいえば、会社法817条1項は、「外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。」と定めており、同2項において「外国会社の日本における代表者は、当該外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」と定めているわけですから、日本国内の事業者と反復継続的に広告契約を結び、日本国内のたくさんの利用者と会員契約を結んでいるGoogle Inc が「日本における代表者」を置いていないこと自体がおかしいのです。したがって、総務省としては、Google Inc.に対して、「日本における代表者」を定めるように求めるところから始めるべきなのです。そして、Google Inc.ですらこの要請に応じないようであれば、もっと強制力を持たせるような法改正をする必要があります。

 その上で、日本国内に在住する日本国民の個人情報を取り扱う外国企業(通常は、日本国内に在住する日本国民と継続的にサービス提供をしています。)に対しても、日本の個人情報保護法が適用されるような法改正を行うことが必要なのだろうと思います。個人情報保護法に限らず、一般に、国の法令の効力はその領域以外には及ばないとされているとしても、立法である程度の拡大はできるわけで(刑法の国外犯の規定を参照)、違反した企業に現実にどの程度の制裁を加えられるかはともかくとして、日本国内に在住する日本国民の個人情報を取り扱う外国企業に対しても、日本国民の個人情報の保護を義務づける法律を立法することに何の躊躇もいらないのではないかと思うのです。

19/01/2012

明治大学「法・情報・社会」シラバス2012

 明治大学法学部で担当している「法・情報・社会」の授業のシラバスを作成し、事務局に送付しました。こんな感じです。

「法・情報・社会 A」

  1. 情報の法的な位置づけ
  2. 情報の収集と法(1)─「情報」の入手に関する法規制
  3. 情報の収集と法(2)─「情報」の記録に関する法規制
  4. 情報の収集と法(3)─「情報」の収集のための諸権利
  5. 情報の加工と法(1)─ 二次的創作に関する法規制
  6. 情報の加工と法(2)─「ニセモノ」に関する法規制
  7. 情報の提供・伝達と法(1)─ 媒体の流通に関する法規制
  8. 情報の提供・伝達と法(2)─ ネットでの情報発信に関する法規制
  9. 情報の提供・伝達と法(3)─ ネットでの情報媒介に関する法規制
  10. 情報の提供・伝達と法(4)─ 情報のSHIFTに関する法規制
  11. 情報の提供・伝達と法(5)─ 情報流通の自由化と法
  12. 情報の提供・伝達と法(6)─ 広告に関する法規制
  13. 情報の保管と法
  14. 情報の利用と法
  15. 情報に関する最新判例

「法・情報・社会 B」

  1. IT社会の発展史
  2. フェアユース
  3. 利用規約
  4. 掲示板・ブログ・Twitter・Facebook
  5. ネット上での誹謗中傷対策
  6. クラウドサービス
  7. 大学と情報法
  8. プロミュージシャンが知っておくべき法律と契約
  9. コミケ
  10. ヴォーカロイド
  11. フリーソフトウェア
  12. 政治と選挙と情報法
  13. IT法に関する立法請願活動
  14. IT犯罪
  15. 青少年保護と情報規制

明治大学「法・情報・社会」シラバス2012

 明治大学法学部で担当している「法・情報・社会」の授業のシラバスを作成し、事務局に送付しました。こんな感じです。

「法・情報・社会 A」

  1. 情報の法的な位置づけ
  2. 情報の収集と法(1)─「情報」の入手に関する法規制
  3. 情報の収集と法(2)─「情報」の記録に関する法規制
  4. 情報の収集と法(3)─「情報」の収集のための諸権利
  5. 情報の加工と法(1)─ 二次的創作に関する法規制
  6. 情報の加工と法(2)─「ニセモノ」に関する法規制
  7. 情報の提供・伝達と法(1)─ 媒体の流通に関する法規制
  8. 情報の提供・伝達と法(2)─ ネットでの情報発信に関する法規制
  9. 情報の提供・伝達と法(3)─ ネットでの情報媒介に関する法規制
  10. 情報の提供・伝達と法(4)─ 情報のSHIFTに関する法規制
  11. 情報の提供・伝達と法(5)─ 情報流通の自由化と法
  12. 情報の提供・伝達と法(6)─ 広告に関する法規制
  13. 情報の保管と法
  14. 情報の利用と法
  15. 情報に関する最新判例

「法・情報・社会 B」

  1. IT社会の発展史
  2. フェアユース
  3. 利用規約
  4. 掲示板・ブログ・Twitter・Facebook
  5. ネット上での誹謗中傷対策
  6. クラウドサービス
  7. 大学と情報法
  8. プロミュージシャンが知っておくべき法律と契約
  9. コミケ
  10. ヴォーカロイド
  11. フリーソフトウェア
  12. 政治と選挙と情報法
  13. IT法に関する立法請願活動
  14. IT犯罪
  15. 青少年保護と情報規制

11/01/2012

社会権としての「ネットにアクセスする権利」

 「ネットにアクセスする権利」って、最近、スリー・ストライク法との関係で語られることが多いようです。そこでは、「アクセス権」の自由権としての側面が注目されています。

 ただ、今後、様々な公的または民間のサービスがネットによって提供されるようになると、経済的な理由等によりネットにアクセスできないことの不利益はどんどん大きくなっていくことが予想されます。そこでは、ネットに適宜アクセスできないことにより貧困を脱出する機会が失われるという悪循環すら生ずる可能性があります。

 そのような社会においては、「ネットにアクセスする権利」の社会権的な側面が重視されることになるのではないかという気がしてなりません。そこでは、例えば、失業者や低所得者に、型落ちのスマートフォンを国や地方公共団体が貸し出し、環境が改善されるまで、定額の通信料を負担するということだって考えられます。「そんな金がどこにあるのだ」という批判はあり得るところですが、失業者の失業期間がそれで短縮されるのであれば、財政的にもそんなに悪い話ではありません。

 また、ホームレスになっても、それらの機器に充電することができるような仕組み作りをすることだって考えられます(充電に要する電気代自体は大したことはないので、要は、彼らを受け入れる環境を公的な機関または公的機関から委託を受けた民間企業に作ることが焦点となります。)。本来ならば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定する憲法を有するわが国では、ホームレスとなった国民が、屋根の下で、最低限必要な暖房設備と電源供給設備を備えた環境で夜露を凌ぐ場を公的機関が提供する義務があるのではないかとも思うのですが、そこに至るまでの次善策として、彼らが再出発する上での足かせとなる「ネットからの隔離」を回避する仕組みを早急に作る必要があるのではないかと思うのです。

14/07/2011

超党派の貸金業法改正検討チームの提言

 河野太郎氏の公式ブログによれば、「超党派の貸金業法改正検討チームの提言を発表した」とのことです。

 利息制限法及び出資法の上限金利を見直し、より経済の実態にあった安定的なものにするとのことなのですが、その具体的な数値が、

例えばTIBOR+25%。
借り手の年収の三分の一という総量規制を撤廃する。

との内容です。どこが「経済の実態にあった安定的なもの」なのか全く意味不明です。「TIBOR」とは「Tokyo Inter-Bank Offered Rate」の略で、東京の有力銀行が銀行間取引をする際に提示する金利のことをいいます。2011年1月11日以降は、12ヶ月もので、ずっと0.47です。そのくらい低成長の今の日本で、借りたお金を1年で25%以上も増やすことは容易ではありません(25%増やしただけでは、全部利息に取られるだけで、その借主の1年間の活動は徒労に終わります。)。

 さらに、総量規制を撤廃することが同「経済の実態」に繋がるのか意味不明です。借り手の年収の半分にあたる金員を年率25%で借りてこれを3年で返還しようと思うと、月収の4分の1を元利金の支払いに充てる必要があります。これは簡単ではありません。続けて、

カウンセリング制度を強化するなど、返済困難者に対する真の救済制度を構築する。

とあるのですが、カウンセリングで返済困難者が救済できれば、多重債務者救済で誰もこんなに苦労しません。っていうか、カウンセリング制度でどう救済しようとしているのか、全く見えてきません。


 面白いのはここからです。「超党派の貸金業法改正検討チーム」の正体が垣間見えてきます。

 

過払い訴訟の代理人を務めた弁護士や認定司法書士800人のうち約700人が申告漏れを国税庁に指摘された(2009年6月)を踏まえ、
国税庁に引き続きの調査を要請する。

とのことです。申告漏れは取り締まられて然るべきだと思いますが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」が提言することではありません。「過払い訴訟の代理人を務めた弁護士や認定司法書士」に対する恨みがそこには見え隠れします。

 

日弁連に適切な対策を要請し、その効果の検証、公表も求める。 改善なき場合は、監督できる仕組みを検討する。

と続きますが、個々の法律事務所において確定申告が適正になされるような適切な対策など日弁連が取り得るわけありませんし、それを「監督できる仕組み」なんて想定できません。日弁連が法律事務所の確定申告を代行せよとでもいいたいのでしょうか。

 

認定司法書士に関して、認定業務を厳格化すると共に、業務拡大を検討する。

とのことですが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」がこのような提言をするとそれは「司法書士さん、貸金業者をいじめるのはやめてね。やめてくれたら、他の仕事をできるようにしてあげるからね」といっているだけのように見えてきます。

 さらに、

過払い利息の返還請求訴訟について、過払い金の返還は直接債務者に行うよう貸金業者に義務づける

という提言もなされています。これは、従前和解が成立した場合(判決確定後支払い方法について協議が整った場合を含む。)には、債務者が債権者側の弁護士の預り金口座にお金を送金するという運用が広く行われているところ、過払い利息の返還請求訴訟についてはこれを禁止するということを意味しています。このような運用は、債権者の銀行口座を債務者に知られることを回避するとともに、債権者側の弁護士が成功報酬の回収を確実にするという意味があって行われているわけですが、「超党派の貸金業法改正検討チーム」は、前者の要請を蔑ろにしてでも、債権者側の弁護士が成功報酬を回収できない危険を増やしたいということのようです。

 河野氏は、

貸金業法の改正により、小口金融市場に対する過剰な規制が行われるようになり、闇金が跋扈するようになった現状を反省し、健全な市場を形成していくための法改正が必要。
と仰るのですが、貸金業法改正により闇金が跋扈するようになったとする立法事実自体が大いに疑問ですし、上記提言が闇金対策に繋がるようにも思われません。

 河野氏は、

大手消費者金融の残高は、06年1月の8.3兆円から10年12月の2.9兆円に7割減。
成約率も同じ期間に55%から33%に低下した。

ことをお嘆きですが、消費者が消費者金融から高利の金を借りなくなったということはむしろ歓迎すべきことのように思われます(一時期、大手消費者金融のテレビ広告が、「見栄を張るための資金調達」の手段としての消費者金融の利用を誘引していたことは記憶に新しいところです。そのような不要不急の高利ローンの利用が減少していくことの何を憂う必要があるのでしょうか。)。

 市民法律相談の現場にいれば、クレジットカードや消費者ローンにまず手を出し、返せなくなって、徐々に高利貸しに手を出すようになっていき、ついには生活が破綻し、場合によっては犯罪に手を染めたり自殺したりという例が多かったこと、「過払い金返還業務に特化した一部の弁護士・司法書士」の宣伝活動のおかげで、近時はそこまで行かないうちに法律相談等に来てくれるためか、高利貸しに生われる相談者に遭遇する例が格段に減ったことを実感できるのではないかと思います。

 法律実務家が積み上げてきたことを、大手消費者金融の意向を受けた国会議員たちが立法で踏みにじる姿が近々見れそうな気がします。

06/07/2011

「プロバイダ責任制限法検証にかかる提言」に対するパブコメ

「利用者視点を踏まえたICTサービスにかかる諸問題に関する研究会 プロバイダ責任制限法検証にかかる提言」に関し、下記のとおり意見書を作成し、提出しました。

//////////////////////////////////////////////

 上記研究会の結論を要約すれば、匿名のネットユーザーにより執拗な誹謗中傷に晒されている被害者が救済を受けられずにいる原因を是正するつもりは一切ないということである。今救われていない被害者は、今後も救われるべきではないというものである。そしてそれは、総務省として、匿名の卑怯者に「嫌がらせをする権限」を提供する権限を日本のインターネットサービスに付与することで、これを発展させる途を選択することとしたということである。

 匿名の卑怯者たちから執拗な誹謗中傷を受けている被害者から多数の相談を受ける立場の弁護士として、このような総務省の方針には反対せざるを得ない。

 以下、具体的に述べる。

 報告書は、次のように述べる(27頁)。

////////////////

 この「権利侵害の明白性」の要件は、被害者の被害回復の必要性と、発信者のプライバシーや表現の自由の利益との調和の観点から規定されたものである。すなわち、被害者の被害回復の必要性が認められる一方で、発信者情報開示請求により開示される情報は、発信者のプライバシーに関わる事項であるところ、プライバシーは、いったん開示されると、原状に回復させることが不可能な性質のものであり、その取扱いには慎重さが当然に求められる。また、匿名表現の自由についても、その保障の程度はさておき、保障されることに疑問の余地はなく、可能な限り、萎縮効果を及ぼさないように配慮する必要がある。このような観点から「権利侵害の明白性」が要件として規定されたものである。

 そうすると、権利侵害が明白である場合にのみ、発信者情報の開示を認めることには必要性及び合理性があるといえ、発信者による権利侵害が明白でないのに、発信者のプライバシー等の利益が侵害されてもよいと考えることは相当ではない。

////////////////

 しかし、発信者のプライバシーや匿名表現の自由が一定の限度で保障されるとしても、それらの権利ないし自由は、被害者の裁判を受ける権利に絶対的に優越するものではなく、「権利侵害が明白である場合にのみ、発信者情報の開示を認めること」の必要性ないし合理性を導くものではない。立法論としては、発信者のプライバシー保護の要請と被害者の裁判を受ける権利の保護の要請とをどこで調和させるのかという問題であり、答えは1つではないからである。

 では、どこで調和させるべきであろうか。この点については、匿名の発信者に対し訴訟等の権利行使を行うことが許されるのはどのような場合か、という観点から考えるべきである。

 原告の側で被告の氏名・住所等を特定しなければならない現行民事訴訟法において、原告の氏名・住所等を特定するための情報収集手段はいくつもある。例えば、戸籍謄本や会社登記簿謄本の交付を受けたり、登録自動車の登録事項等証明書の交付を受けたりする場合である。いずれの場合も、情報主体の個人情報が開示されることとはなるが、上記書類等の開示を受けるにあたり、その情報主体による権利侵害が明白であることの証明を求められることはない。市町村役場にせよ法務局にせよ陸運局にせよ、その情報主体による権利侵害が明白か否かの判断をいちいち迫られても対応できないし、当該情報主体に対し訴訟等を提起したい権利者等から情報開示を求める訴訟をいちいち提起されるのも迷惑な話である。

 また、わが国では、訴えを提起する段階で、請求原因事実が存在すること及び抗弁事実が存在しないことを証明する義務を原告に負わせておらず、これらを証明する証拠が訴状に添付されていない場合に訴えを却下できるという法制度を採用していない。抗弁事実等被告が立証責任を負う事実についてそれが存在しないことを証明できなければ訴えの提起自体が許されないということでは、立証責任を被告側に負わせるように実体法を制定した意味がなくなってしまうので、当然である。更にいえば、原告が立証責任を負う事実についても、文書提出命令等の手続を用いて、訴訟手続の中で証拠を収集することが制度的に予定されているのであるから、訴え提起の段階でそれらの事実を証明するに十分な証拠が添付されていなくとも、そのことをもって訴えを却下することは適切ではない。

 さらにいえば、発信者はその発信者情報が開示されたとしても、訴訟においてその情報発信の正当性を証明していくことができるのに対して、被害者は発信者情報の開示を受けられなければ、損害賠償請求権や人格権侵害行為の差止請求権等の実体法上の権利を手続法的に行使する手段を完全に奪われるのである。したがって、基本的人権の擁護という観点からは、むしろ、発信者情報を広範に開示する方向で、発信者と被害者との人権の衝突を調和することこそが望ましいと言える(発信者のプライバシー保護は、発信者の氏名・住所に関する部分については広範に訴訟記録の閲覧・謄写制限を認める、発信者情報の目的外使用について制裁規定を設ける等の方法によることも可能である。)。

 そのように考えるならば、少なくとも、当該特定電気通信による権利侵害に関して当該発信者に対し訴えを提起する利益が開示請求者にあることが疎明された場合には、開示関係役務提供者は発信者情報を開示する義務を負うとすることこそが合理的であるというべきである。

 また、報告書は次のようにも述べる(39頁)。

//////////

プロバイダ等に通信履歴の保存義務を課すことは、現時点では、法律上も事実上も困難であり、プロバイダ等に対する通信履歴の保存義務については、これを肯定するだけの根拠に乏しいものと解さざるをえない。

/////////

 しかし、通信履歴が電気通信事業法上の「通信の秘密」に含まれるとしても、通信の秘密が侵害されるのはこれが電気通信事業者以外の者に入手されたときであって、電気通信事業者においてこれを保存すること自体は「通信の秘密」を何ら侵害するものではない(実際、電気通信事業者が経営上の判断で自主的に通信履歴を長期にわたり保存することは自由である。今日、電子通信事業者が自主的に通信履歴を保存する行為を電気通信事業法第4条違反とする見解は見当たらない。)。

 また、報告書は「情報漏えいの危険性があることから、その取扱いは極めて慎重に行われている状況」であるとする。しかし、通信履歴自体には発信者の氏名・住所等は記録されていないので、仮に通信履歴が漏えいしたとしてもそのことによる被害者それほど大きくはない(むしろISP等で情報漏えいが起きたときに問題となるのは利用者の登録情報であるが、これはISP等において当然のように保存されている。)。

 したがって、プロバイダに通信履歴の保存義務を課すことが法律上困難であるとは考えられない。

 また、昨今の記録媒体の大容量化、低価格化の元においては、通信履歴を保存するコストは大幅に下がっている。報告書においては「全インターネット利用者の通信履歴を保存しなければならないとした場合、中小零細のプロバイダ事業者はもちろんのこと、大手プロバイダ事業者においても、その利用者数(契約者数)を勘案すると、本来の業務を圧迫して、適切なサービスを提供することができなくなる可能性も否定できない」とあるが、例えば1000人以上の利用者を有するプロバイダ事業者において1ヶ月分の通信履歴を全部保存するのに1人あたりどの程度のコストがかかるのかすら報告書に明記されておらず、それでなぜ「本来の業務を圧迫して、適切なサービスを提供することができなくなる可能性も否定できない」といいうるのか疑問である。

 さらにいえば、電気通信役務提供事業は、今日、権利侵害情報の流布という一種の公害を一定の範囲内でまき散らす事業となっているのであるから、その公害の発生を未然に防ぎかつ被害者の救済を行うのに必要な範囲内で一定のコストを負担するのは当然のことであるとすらいうべきである。

 現行法では、自社の電気通信設備を違法行為に利用してもらうことを企図して、通信履歴を一切保存しないことを謳って顧客を集客することも合法であるし、そこまで極端でなくとも、1段階目の発信者情報開示請求により被害者が発信者のIPアドレスを入手するのに通常要する期間までに通信履歴を削除する運用にしてしまえば、そのISP等の電気通信設備を用いて匿名の陰に隠れた違法行為を繰り返す利用者が民事訴訟により法的な責任を負わされることを回避できることになってしまう。

 これでは、インターネットを利用した違法行為に関しては、被害者の裁判を受ける権利というのは絵に描いた餅に終わってしまうし、何をしても事実上法的な責任を負わされることはないという確信は、それ他のインターネット利用者による加害行為をエスカレートさせる効果を持つことは必定である(現に、そうなっている。)。

 したがって、1年程度の通信履歴保存義務を負わせる法改正こそが望まれているというべきである。

 なお、このような報告書を作成した委員の皆様、官僚の皆様におかれましては、インターネット上の匿名電子掲示板等において特定のターゲットが長期にわたり膨大かつ陰湿に誹謗中傷されているログデータをいくつも熟読していただきたい。そして、あなた方が出した結論は、こういう被害をこれからもいくつも生み出していくことに繋がるのだ、そして、被害者に絶望感を押しつけることに繋がるのだということを自覚し、今後、誹謗中傷に耐えかねて自殺する被害者等が現れたときには、自分たちが作成した報告書が、その自殺に大きく寄与したのだと自覚して今後の人生を歩んでいただきたい。そう願うものである。

16/06/2011

震災の法律相談

Shinsai

 この度、学陽書房から「震災の法律相談」を出版することになりました。

 労働問題の編集を佐々木亮先生に、外国人関連の編集を山口元一先生にお願いすることができたこともあり、東日本大震災後に出版された他の震災関連法律本よりは面白く、為になるものになったのではないかと自負しています(その分、Q&Aの個数自体は少なめになっていますが。)。

14/06/2011

震災に関する法律文献

 東日本大震災以来発行された、震災等と関連する法律に関する文献をざっとまとめてみました。

 こちらからどうぞ。

11/05/2011

利害関係者であろうと、選挙区割りを具体的に変えるのは国会議員なんだ

 一人一票実現国民会議という団体があります。近々総選挙が予定され、そこでは自民党が敗北し下野することになると予想されていた2009年7月に発足し、果たして、自民党が敗北することとなった2009年8月の総選挙について、無効確認請求訴訟をいろいろなところで提訴していた団体です。
 そういう訴訟を提起することの意義を私は十分に認める者です。でも、私は、現在の一人一票実現国民会議の活動方針には大きな疑問を持っています。上記無効確認請求訴訟で現在の公職選挙法は違憲状態にあるとの判決が確定したわけですから、今なすべきことは、これを受けて、与野党に働きかけ、早期に議員定数の不均衡を是正する公職選挙法の改正を目指すことなのだと思います。しかし、どうもそのようなことは行われていないようです。今やっているのは、一人一票を認めない最高裁判事に、国民審査の際に不信任の「X印」を投票することを働きかける運動のようです。
 衆議院の解散がなければ次回の国民審査は2年後。そのとき同時に行われる総選挙について、無効確認訴訟を提起して認容されるのは、そのまた数年後。で、違憲無効が確認されたとして、最高裁が、その適切と考える選挙区割りを判決の中で具体的に判示するとは考えがたく、違憲無効確認判決が確定したとして、その先は暗中模索。実に迂遠な話です。
 で、先日、上記運動の中心人物の一人である伊藤真先生に「むしろ、端的に一票の勝ちの不均衡が小さい選挙区割りを実現するように与野党に働きかける時期なのではないですか?」とおたずねしたところ残念ながら政治家は利害関係者です。 とのご回答をいただきました。
 これに対して、「ということは、最高裁が「正しい選挙制度」を法創造することを期待されているのですか?実際の選挙区割りは国会以外ではできないと思っているのですが」と再質問させていただいたところ、最高が1人1票を要請することによって追い込まれることが必要ということです。 これまで国会は最高に従っています。とのご回答をいただきました。
 しかし、それならば、現在の選挙区割りは違憲状態にあるとの判決が最高裁で確定しており、現在の定数のまま解散総選挙した場合には再び違憲状態にあると判示されることが必定であり、場合によってはさらなる判断が最高裁によってなされるおそれが顕在化しているわけですから、ある意味「追い込まれている」といえます。したがって、今は、どうせ公職選挙法を改正するのであればなるべき抜本的な改正を行うように働きかけを行う時期であるように思えてならないのです。そして、一人一票実現国民会議の発起人・賛同者を見ていると、荒井寿光さんだとか、奥谷禮子さんだとか、角川歴彦さんだとか、宮内義彦さんだとか、自公連立政権時代にいろいろな政府のブレーンを務めてきた人たちが結構おられるのですから、自公両党を説得する役割を担う能力を十分に持っているはずなのにです。

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